- 厚さが分子1個分という、非常に薄い高分子シートが開発された
- これは分子レベルの隙間を持つ多孔性金属錯体(MOF)を鋳型にして分子を結合させていくことで実現
- 柔軟性が非常に高く、さまざまな機能性材料の素材として応用できる
高分子化合物から作られるシートは、現在ラッピングやコーティング材料、ディスプレイや電池、医療用品から化粧品まで、さまざまな分野の製品に利用されています。
こうした高分子シートを薄く作ることは、製品の軽量化やコスト削減に貢献できるため、重要な技術テーマです。
そして、理論上もっとも薄いシートは、構成される分子1個分の厚さということになります。
でも、さすがにそんなに薄いシートを作るなんて無茶過ぎる、と思ってしまいますが…なんと、それを見事に実現した研究が登場しました。
東京大学大学院新領域創成科学研究科の植村教授ら研究チームは、分子サイズの隙間を持った多孔性金属錯体(MOF)という素材の隙間の中で分子を結合させていくという方法でそれを実現させたのです。
夢の超極薄素材は、さまざまな産業にこれから革命を起こしていくかもしれません。
極薄素材の開発
高分子シート、またはポリマーシートと呼ばれるものは、現在幅広い分野で活躍しています。
高分子シートを薄く作るために現在使われている方法は、一般的に塗布や延伸といったもので、これは製造の原理上生み出せる厚さに限界があり、分子レベルまで薄くするということは非常に困難でした。
そのため、分子レベルまで薄くしたシートがあった場合、どんな性質を示すのか、ということも謎に包まれていたのです。
今回の研究チームは、分子1つ分という薄さのシートを作るために、金属イオンとそれをつなぐ有機物から合成された多孔性金属錯体(MOF)という材料に着目しました。
この材料はナノサイズの2次元状の空間が規則的に並んだ構造をしています。
この材料を鋳型代わりに使って、狭い隙間の中で分子を結合させていき高分子シートを作れば、超薄いシートが作れるのではないか? と考えたのです。
発泡スチロールなどの材料でもあるスチレンは、分子1つの大きさが約0.7nmです。
研究ではこのスチレンがちょうど入れるくらいの0.8nmの隙間を持ったMOFを合成して、そこにスチレン分子を入れて分子を架橋重合(高分子の鎖同士を橋かけし、ネットワーク化すること)させていき、最後にMOFを溶かして取り除きました。
すると、見事に1分子の厚さを持ったポリスチレンシートが完成したのです。
これはMOFの厚さを1.2nmなどに調節すると、その隙間の広さに応じた厚さの高分子シートを作ることもできたことを示しています。
つまり1分子の厚さから自在の厚さでシートを作り出せる手法が発見されたことになるのです。