長期間維持可能な自己複製系
これまで考案された自己複製システムは、どれも自己増殖の結果として資源を使い果たし、システムが停止してしまいました。
そのため、どの自己増殖モデルを使っても、生命に近づく様子は観察されなかったのです。
そこで東京大学の研究者たちは、試験管内部に自己増殖能力を持ったRNA分子入れ、大腸菌の細胞質ゲルから抽出した「無細胞翻訳反応液」を加えました。
この無細胞翻訳反応液には遺伝翻訳に必要なタンパク質、RNA、リボソーム、アミノ酸や核酸などの低分子化合物が、反応に必要なエネルギー源と共に含まれていました。
自己増殖に必要な資源とエネルギーが込められたパッケージと言い換えることができます。
自己増殖能力を持ったRNAをこの無細胞翻訳反応液に加えて温めると、RNAにコードされた遺伝子がタンパク質として翻訳され、複製酵素をつくり、RNAの自己増殖が行われはじめます。
またこのシステム全体を、上の図のように、油中水滴(油の中にある小さな水分)の中に封じ込め、資源とエネルギーのパッケージである無細胞翻訳反応液で希釈させながら、複製を繰り返していくと、複製ミスにより突然変異が起き、元とは僅かに異なる配列を持ったRNAが生じました。
この変異がオリジナルとなる配列よりも複製しやすい配列であった場合、変異配列は集団の中で自分のコピーを増やしていき、新たな主流派を形成することがわかりました。
優れたものがオリジナルと入れ替わるのは、生物の世界の基礎となった分子からなる自己複製システムでも同じようです。
ですがこのRNA複製をしばらく続けていると、研究者は奇妙な配列を持ったRNAが現れはじめたことに気が付きました。