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他者に複製能力を依存する寄生型RNAの存在は単一だった宿主RNA配列を異なる種に分岐させた/Credit:東京大学
biology

物質から生命の進化を可能にしたのは「寄生体」との共進化だった

2020.07.24 Friday

point
  • RNA分子をベースにした自己複製系を長時間に渡り維持することに成功した
  • 世代が重なると自己複製系からウイルスのように複製能力を他のRNAに依存する寄生RNAがあらわれた
  • 宿主RNAと寄生RNAは互いに耐性獲得競争をはじめた
  • 耐性獲得競争を続けるうちに宿主RNAが複数の系統に分岐し異なる分子の種がうまれた

生命が生まれる前の時代では、すでにRNAや短いタンパク質からなる、分子の自己複製システムが存在していたと考えられています。

すなわち生命が生まれてから自己複製システムができたのではなく、もともと地球に自己複製システムがあったからこそ、生命誕生につながったとの意見です。

しかしこれまで地球にあったと考えられている自己複製システムは、分子の急激な増殖の末、周囲の資源をあっという間に使い果たして停止させると分かっています。

そのため現在に至るまで、実験室で生命を誕生させた自己複製システムを再現する試みは失敗しているのです

もし既存の自己複製システムしか原始の地球なかった場合、実験室での失敗と同じように、地球で生命は誕生しなかったでしょう。しかし現に私たち生物は存在しています。

自己複製システムが先に存在したに違いないが、それをいくら実験室で試しても生命はうまれない…。

この単純な謎は永遠に解けないかに思われました。

しかし今回、東京大学の研究者たちは原始地球を模した自己複製システムに、独自の調整を加えることで、自己複製反応を300世代以上、延々と続けることができました。

また複製を重ねる中で試験管内部にはベースとなるRNAの他に、ウイルスのよう「寄生型のRNA」がうまれたほか、寄生型RNAに耐性をもった新型RNAの誕生と、その耐性にさらに耐性を持った新型寄生RNAがうまれました。

そしてこの絶え間ない耐性獲得競争が、単一だったRNAを複数の異なる系統に分岐させ、新たな「種」を作り出していたのです。

この結果は、分子の世界において、種の起源は競争であったことを意味します。

長期間維持可能な自己複製系

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新たな反応液へと継代することで持続的な自己複製反応が得られた/Credit:東京大学

これまで考案された自己複製システムは、どれも自己増殖の結果として資源を使い果たし、システムが停止してしまいました。

そのため、どの自己増殖モデルを使っても、生命に近づく様子は観察されなかったのです。

そこで東京大学の研究者たちは、試験管内部に自己増殖能力を持ったRNA分子入れ、大腸菌の細胞質ゲルから抽出した「無細胞翻訳反応液」を加えました。

この無細胞翻訳反応液には遺伝翻訳に必要なタンパク質、RNA、リボソーム、アミノ酸や核酸などの低分子化合物が、反応に必要なエネルギー源と共に含まれていました。

自己増殖に必要な資源とエネルギーが込められたパッケージと言い換えることができます。

自己増殖能力を持ったRNAをこの無細胞翻訳反応液に加えて温めると、RNAにコードされた遺伝子がタンパク質として翻訳され、複製酵素をつくり、RNAの自己増殖が行われはじめます。

またこのシステム全体を、上の図のように、油中水滴(油の中にある小さな水分)の中に封じ込め、資源とエネルギーのパッケージである無細胞翻訳反応液で希釈させながら、複製を繰り返していくと、複製ミスにより突然変異が起き、元とは僅かに異なる配列を持ったRNAが生じました。

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複製のなかでエラーが起こり配列が変化する。そして優れた配列は劣った配列を排除する/Credit:東京大学

この変異がオリジナルとなる配列よりも複製しやすい配列であった場合、変異配列は集団の中で自分のコピーを増やしていき、新たな主流派を形成することがわかりました。

優れたものがオリジナルと入れ替わるのは、生物の世界の基礎となった分子からなる自己複製システムでも同じようです。

ですがこのRNA複製をしばらく続けていると、研究者は奇妙な配列を持ったRNAが現れはじめたことに気が付きました。

次ページ寄生RNAはウイルスのように宿主RNAの複製能力に依存する

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