ゾンビ化の代償は進化のドン詰まり
宿主の行動を支配して別個体の宿主を次々に感染させるゾンビ化は、菌にとって有効な戦術であると考えられるでしょう。
しかし意外なことに、ゾンビ化は感染の主流ではなく、非常に限られた菌やウイルスのみでみられます。
その主な原因としてあげられるのが、ゾンビ化が極端な進化の結果であるという事実です。
事実、先に述べたように、マッソスポラはセミの体内で生きることに特化しすぎたせいで、他の菌ならば容易に適合できる人工的な培地での生存能力を失ってしまいました。
またゾンビ化を主な繁殖戦略として選んだ場合、ゾンビ化以外の繁殖方法が制限されると共に、宿主にあわせて常に高度な宿主特異性を維持する必要性が生じ、別種の宿主に感染可能になるような進化的余裕が失われます。
進化において余裕がないということは、セミ以外の種への感染能力を獲得する余裕がないことを意味します。
つまりは、進化のドン詰まり状態なのです。
そして、そのような行き過ぎた進化は絶滅や環境変化のイベントに対して極めて脆弱となるでしょう。
ゾンビ型感染を引き起こす真菌は強いと思われがちですが、実は適応能力と進化の可能性を失った、非常に儚い存在だったのです。
研究内容はアメリカ、ウェストバージニア大学のブライアン・ロベッド氏らによってまとめられ、6月18日に学術雑誌「PLOS PATHOGENS」に掲載されました。
https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1008598