- 水道水のリチウム濃度と地域の自殺率に負の相関があるという研究は、90年以降数多く報告されている
- 英国の研究チームは、こうした地域別に行われた研究群に対して史上初のメタアナリシスを実施した
- 結果微量のリチウムで、地域のメンタルヘルスが改善される可能性がかなり有望だと示された
リチウムと聞くと、多くの人がスマホなどに使われる小型バッテリーを想像するでしょう。
けれど、うつ病をはじめとした気分障害に悩む人は、薬品を思い浮かべるかもしれません。
リチウムはバッテリーの材料以外に、気分を安定させたり、自殺を低減させる優れた向精神薬としての実績を持っています。
通常、薬として使用される場合、リチウムは高濃度で投与されます。
しかし、最近の研究ではこのリチウムが低濃度でも十分な効果を発揮する可能性があると指摘されているのです。
しかもそれは水道水に含まれる僅かな濃度のリチウムでも、地域の自殺率を変化させているとのこと。
日本では大分大学などが数年前に大規模な調査結果を報告していますが、世界各国でも同様の調査研究が行われていて、その関連論文数は実に数百件に及びます。
こうした中、英国の研究チームが初めて飲料水のリチウム濃度と自殺率に関するメタアナリシス(複数の論文を統合して非常に精度の高い分析を行うこと)を実施しました。
その結果によると、水道水の僅かなリチウムが自殺率を減らし、地域のメンタルヘルスを改善させる可能性は、非常に有望なようです。
天然元素「リチウム」とは?
リチウムは1817年に鉱石の中から発見されたため、ギリシャ語で「石」を意味する「Lithos」にちなんで名付けられました。
このリチウムは1949年に、オーストラリアの医師ジョン・ケイドがモルモットの実験から躁うつ病に効果的だと報告したことで、向精神薬として利用されるようになります。
水道水のリチウム濃度という話をされると、そんな向精神薬の材料になるようなものをわざわざ添加されているの? と疑問に思う人もいるかもしれませんが、天然の鉱物に含まれるリチウムは、自然の中で勝手に染み出してくる成分です。
そのため水道水でなくとも、野菜や穀物、ミネラルウォーターの中にも含まれているし、海水には淡水よりずっと高濃度のリチウムが含まれています。
天然元素なので、水道水の含有濃度も地域によって異なっているわけです。
また、最近の研究ではリチウムがアルツハイマー病などの認知症発生率の低下や、地域の暴力事件の低下に関連しているという報告もされています。