研究のメタアナリシス
水道水中のリチウム濃度が高いと地域の自殺率を下げるという研究は90年以降世界各国で行われていて、数多くの論文が投稿されています。
ただ、それらはあくまでローカルな調査結果で、世界全体の調査結果を集計して分析したものはありませんでした。
そこで、今回の研究チームは世界中で報告されている文献を徹底的に集め検証し、最終的に9件の研究に絞り込んでメタアナリシスを行ったのです。
これには日本、オーストラリア、アメリカ、イギリス、ギリシャ、イタリア、リトアニアの1286の地域の調査データが含まれていました。
サンプルとした飲料水のリチウム濃度は平均で3.8μg/ Lから46.3μg/ Lの範囲に収まっています。(ただし例外で80μg/ Lを超えるコミュニティがいくつかありました)
この地域のリチウム濃度と自殺率を分析した結果、有意に逆相関(一方の値が上がると一方の値は下がる)の関係性があると確認できたのです。
ただ、これはまだ可能性段階の話で結果には注意が必要です。リチウムを摂取する経路は先に説明したように自然の中に多数存在します。
野菜や穀物などの食べ物にも含まれますし、天然ミネラルウォーターには水道水よりもはるかに高いリチウムが含まれていることがあります。
こうした外部要因との関連を細かく検証することは現状できないため、あくまで水道水のリチウムだけを原因に絞って調査は行われているのです。
実際に検証するならば、自殺率が高い地域の水道水のリチウム濃度を上げて、効果があるか確認するということになってしまいますが、それはちょっと政府の陰謀めいた実験にも見えて印象はあまり良くありません。
ただ、リチウムを精神医学で用いる場合、効果を確認するためにかなり高濃度で利用しなければならないと考えられています。薬としての利用開始当初の頃は、致死量と効果量が近いために患者を誤って死なせてしまうという事故も起こっているそうです。
躁うつ病などを患う人は、気分を安定させるために薬漬けになってしまうという問題があります。
もし水道水に含まれる程度の微量のリチウムでも、長期間摂取し続けることで十分にメンタルヘルス改善の効果が現れるのだとしたら、それは重要な発見になるでしょう。
この研究は英国サセックス大学の研究者Anjum Memon氏を筆頭とした研究チームより発表され、精神医学に関する学術誌『The British Journal of Psychiatry』に7月27日付で掲載されています。
https://doi.org/10.1192/bjp.2020.128