南米の西側、ペルーとボリビアの国境に位置する「チチカカ湖」は、標高3800メートル付近にあり、「航行可能な世界最高所の湖」として知られます。
そのチチカカ湖の水中で、インカ帝国の遺物が新たに発見されました。
遺物は、生贄の儀式に使われた石の箱と見られ、チチカカ湖がいかに神聖な場所であったかが示唆されています。
研究は、米・ペンシルベニア州立大学とベルギー・ブリュッセル自由大学により報告されました。
箱の中に「リャマ像」と「金のホイル」を発見
石の箱が見つかったのは、チチカカ湖の北東部に浮かぶ「カカヤ岩礁(K ’akaya reef )」です。カカヤ岩礁の南西側、水深5.5〜5.8メートル付近に沈んでいる状態で発見されました。
箱は引き上げの前に、発見された位置のまま撮影されています。
研究チームは、石の箱を現地の研究所に運び、市や地元先住民の責任者立ち会いのもと慎重に開封しました。四角形の箱の中心部には円状の穴がくり抜かれており、それに合う形のフタで閉じられています。
フタを開けると、中には貝殻から作られた小さな「リャマ像」と円筒形に丸められた「金のホイル」が入っていました。
これらはインカ帝国の儀式において、生贄の「代替え」として使われた作り物と考えられています。
1200年頃に成立したインカ帝国は、スペインの征服者によって1533年に滅ぼされるまで、アンデス山脈の南西部を中心に支配していました。中でもチチカカ湖は、インカ帝国の神・ビラコチャが住む場所として神聖視されていたのです。
また、チチカカ湖の中央に浮かぶ「太陽の島(Isla del Sol)」は、ビラコチャの息子である太陽神・インティが「暗闇から世界を救うために現れる場所」として、インカ帝国ナンバーワンの巡礼地となっていました。
そのインカ帝国で行われていたのが「カパコチャ(Qhapaq hucha)」という儀式です。
カパコチャは、飢饉や洪水、皇帝の死といった災難が起こった際に行われ、最も純粋な存在である子供が生贄に選ばれます。
しかし、研究チームによると「石の箱のリャマ像と金のホイルは、子供の『代替え』としてチチカカ湖の神に捧げられた可能性が高い」とのことです。
チチカカ湖では、以前にも似たような遺物が発見されており、1977年には「太陽の島」の近くで、1988年と1992年には「コア岩礁(Khoa reef)」で見つかっています。
今回、また別の場所で石の箱が見つかったことから、当時の人々はチチカカ湖の一部ではなく、全体を神聖な場所として崇拝していたのかもしれません。