刃を欠けさせる原因
Roscioli氏はこの謎を解明するための実験装置を構築しました。
この装置は可動式の台で構成されていて、一方にカミソリの刃を固定し、もう一方に髪の毛を固定します。そしてさまざまな角度と深さを設定して繰り返し剃る行為を模倣します。
この装置は、走査型電子顕微鏡の中に収まるように設計されていて、切断実験をしながら、髪の毛と刃の両方を高解像度で撮影することができます。
Roscioli氏は自分の髪だけでなく、研究室メンバーの髪も集めてさまざまな直径の毛で切断実験を行いました。
この実験でも、髪の太さに関係なく予備実験と同様の結果が確認できました。刃の欠けは、特定の場所に限られて起きていたのです。
より詳細に実験画像を解析した結果、刃に対して髪の毛が垂直に切断された場合、欠けは発生しないことがわかりました。
では角度をつけて刃が髪の毛に当たった場合はどうなのでしょう?
その場合、切断時に切り屑が発生したのです。さらにそれは刃が髪の毛の側面に当たる場所にもっともよく発生していることがわかりました。
どういう状態がこの切り屑を形成しするのか確認するため、研究チームは髪の切断をモデル化し計算シミュレーションを実行しました。
ここで条件として設定したのは、切断角度、切断時にかかる力の方向、そして刃の鋼の組成です。
その結果、鋼の組成が不均一になっている構造の弱い部分に角度をつけて髪が当たったとき、刃が欠けてしまうということがわかったのです。
原因は鋼の組成の不均一にあったのです。この状態だと、材料にマイクロクラック(微小な亀裂)が入ると、加えられた応力の影響が強く出る「応力激化」と呼ばれるメカニズムを示すのだと、研究チームのTasan氏は説明しています。
小さな亀裂は、材料の不均一な構造のために容易にその部分の刃を欠けさせて大きな傷を作ってしまうのです。
シミュレーションの結果は、髪の毛のような柔らかい材料から受ける圧力でさえ、材料の不均一性がその影響を増大させて大きな欠けを生じさせていることを明らかにしたのです。
研究チームはこのことから、基本的な考えとしては、高い硬度を維持しながら、材料の不均一性を減らすことができれば、非常に長持ちするカミソリの刃を作ることができる、と語っています。
彼らはその加工法についても検討がついていて、現在仮特許を申請中です。
近い将来、もっとずっと長持ちする丈夫なカミソリが実現するかもしれません
この研究は、MITの研究チームより発表され、学術雑誌『Science』に8月7日付けで掲載されています。
https://science.sciencemag.org/content/369/6504/689