- コロイド溶液内で、光を当てると凍るように結晶化する不思議な粒子の振る舞いが確認された
- 懸濁液の中のポリスチレン粒子は、光を当てることで温度が5℃上昇するが、拡散せずに凝集する
- 光のピンセットで粒子を制御するような作用は、さまざまな分野に応用できる技術になる
温めると凍って、冷やすと溶ける、そんな奇妙な粒子の振る舞いが実験で確認されました。
イギリスのケンブリッジ大学の研究チームは、懸濁液(コロイド)の中のポリスチレン粒子に光を当てることで、まるで凍結するように1カ所に凝集するのを確認できたというのです。
不思議なその振る舞いを見てみましょう。
光で結晶化
これが実際に行われた実験の映像ですが、光を当てることで粒子がまるで凍りつくように1カ所に集まって結晶になっているのがわかります。
これは30マイクロメートルの油滴を一本鎖DNAでコーティングした高分子の中に、0.5マイクロメートルのポリスチレン粒子を結合させたものです。
DNAはポリスチレンと油滴を結びつけて、水の中でコロイド(懸濁液)を形成します。
懸濁液を加熱すると、油と水の間で流れが生まれ、油滴の表面にあるポリスチレン粒子は冷たい方へ向かって流れるのです。
この流れは水と油の温度変化が異なることや、表面張力の違いによって生まれるもので、「マランゴニ対流」と呼ばれています。
この現象を簡単に説明すると、懸濁液中の粒子は温められれば飛散してしまうということです。
最初の動画では、懸濁液のポリスチレン粒子はレーザー光を浴びることで温度が5℃上昇しています。
このように周囲の水に対して熱勾配が生じた場合、通常はマランゴニ対流によって、ポリスチレン粒子は散乱されて、コロイドはバラバラになってしまうはずです。
しかし、動画ではまったく逆のことが起こっています。
これはポリスチレン粒子が一本鎖DNAのかすかな網目に結び付けられているため、1つの粒子にレーザーを当てて加熱すると、油滴の表面上で他の粒子を吸い寄せるような流れを作っているのです。
これは水と油に挟まれて、さらにDNA鎖によって油の表面に粒子が捕らわれることで生まれる不思議な粒子の振る舞いなのです。
研究チームは2つの流体の熱伝導率を切り替えれば、この流れの方向は逆になり、光を当てれば拡散するようになると話しています。
光は粒子を操作するためのかなり汎用性の高い道具になるようです。今回の実験は、粒子にレーザー光を当てるだけ集めたり離したりすることが可能なことを証明しています。
この技術は非常に小さい物質を、見えない光のピンセットで動かすようなものだといいます。
こうした技術は将来的に分子スケールの機械を作り出すために、重要な方法の1つになるだろうと期待されています。
この研究は、ケンブリッジ大学の研究チームにより発表され、物理学に関する学術雑誌『Physical Review Letters』に8月5日付けで掲載されています。
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.125.068001
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/66224