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物体の状態は温度が決めているのではなかった
ムペンバ効果が発見されてから様々な実験が行われてきた結果、熱いモノのほうが冷たいモノより早く冷却するという現象は、水以外にも磁気系、クラスレート水和物、ポリマー、ナノチューブ共振器、量子系、低温ガスなどでも起こることがわかってきました。
そこで研究者らは、水やポリマーよりも遥かに単純なシステムで、ムペンバ効果を再現することができれば、その解明に大きく近づけると考えました。
具体的には、小さなビーズを水分子に見立てて、ビーズをレーザーで熱し、そして水で冷却しすることで、ビーズ内部のエネルギー(電位)が減少していく過程を観察したのです。
結果、ビーズの冷却という単純なモデルであってもムペンバ効果があらわれることがわかりました。
すなわち、高温に熱したビーズのほうが、低温で熱したビーズよりも早く冷却水の中で冷めることが確認できたのです。
さらに特定の条件下では、高温のビーズは低温のビーズよりもかなり早く、時には指数関数的な速度で急速冷却されました。
一例を示せば、ある低温のビーズは冷却に20ミリ秒かかった一方で、高温のビーズは同じ温度までの冷却に2ミリ秒しかかかりませんでした。
そして研究チームは得られたデータを分析した結果、「熱い物体が冷却されるためにはまず、ぬるくならねばならない」という直感的な常識が、現実世界では通用しない事実を発見したのです。
現実の世界では必ずしも冷却という現象は理想通りに進まず、かなり「むらのある冷却」が起きます。
そしてこの、むらのある冷却が起きているときには、熱い部分が局所的に、低温に移行しやすい構造に再配置する現象も発見します。
これは、むらのある冷却において高エネルギー領域は、低エネルギーの分子構造にいち早く変化できる近道になることを意味します。
研究者はこの奇妙な結果について「目的地から遠いヒッチハイカーのほうが条件によっては、目的地に近いヒッチハイカーよりも早くたどり着ける」ことに似ていると話します。
ヒッチハイカーにとって移動距離は必ずしも到達時刻の決定要因にはなりません。目的地が一致していて、気のいいドライバーをいち早く見つけることが重要です。
今回の結果に関して言えば、高温の場所ほど気のいいドライバーが多く、低温の場所には乗せてくれないドライバーが多いということになるでしょう。
同じように高温から低温への変化も「元の温度」は必ずしも決定要因にはならず、他の要因が介在しているようです。
現在のところ、このヒッチハイカーに例えた要因が、物理的な温度変化における何に当たるものなのかは解明できていません。
どうやら身近だと思っていた冷却現象は、直線的な温度変化として説明がつくような生易しい現象ではなかったようです。