2枚の板の一方を固定し他方を柔軟な金属膜に変える
真空の力の差が生み出すカシミール効果の発見は物理学界に大きな衝撃を与えました。
しかし残念ながら、これまでカシミール効果の研究や利用は学術的な分野に限られていたとのこと。
一方、近年のナノテクノロジーの進歩により、顕微鏡サイズのセンサーやスイッチ、増幅器(アンプ)、光子発信源などが実用化されました。
その結果「微小な空間さえ作れれば力学的な力が無から発生する」というカシミール効果を、これら顕微鏡サイズのシステムに組み込めないかという模索が行われるようになりはじめます。
そこでアメリカ、カリフォルニア大学の研究者は、カシミール効果を使って力学的な力をうみだし物体を移動させる基礎実験を行うことにしました。
ただ原始的なカシミール効果を証明する装置では力学的な力は取り出せません。
そこで研究者たちは上の図のように、本来は硬い金属板である「板」の一方を固定された土台とし、もう一方の板にあたる部分を、直系3.8cmの金メッキがされた窒化ケイ素からなる金属膜に変更しました。
この状態で金属膜と土台を近づけていくとカシミール効果によって薄い金属膜は湾曲します。
このとき土台が台形になっているのは、湾曲する形をお椀型にするためです。
土台を台形にすることで、金属膜の中央には強いカシミール効果が生じます。
この実験は原始的なカシミール効果の実験に使われる2枚の板を、一方を不動の土台に、そしてもう一方を金属膜にしただけというシンプルなものです。
しかしながら結果として、カシミール力は3.8cmの金属膜という巨視的な物体を動かすという仕事を成し遂げました。
さらに金属膜と土台の距離を調節することで、金属膜にかかる圧力を制御し、ヘコミの深さを自由に変えることにも成功しました。
なお、今回の研究で最も特異である点は、金属膜の変形する瞬間においては、古典物理学的な手法を一切使わなかった点があげられます。
金属膜がへこむ瞬間は、磁力も電力も光子も電子も分子も原子も、その他一切の古典物理世界的存在の力を借りず、真空の力だけが働いていました。