水素分子を光が駆け抜ける時間の測定
この非常に短い間時間を測定するために、研究チームはドイツ・ハンブルクにある粒子加速器ドイツ電子シンクロトロン(通称: DESY)の「PETRA III」を使用しました。
「PETRA III」は非常に短波長のX線を照射することができる実験設備です。
チームはこのX線を使い、1個の光子が水素分子内の2つの電子に相互作用するよう設定しました。
水素分子には2つの電子があります。分子を通り抜ける光子は、水切りで平たい石が水面を弾いて飛び水面に波紋を広げるように、2つの電子に連続で相互作用して電子波を生成させます。
ここで発生した電子波は互いに干渉し、干渉縞を作り出します。
そして研究チームはCOLTRIMS (冷却標的反跳イオン運動量分光法)反応顕微鏡という非常に高感度の装置を使って、水素分子の空間配置を測定しました。
この測定により水素分子の空間的な位置がわかったので、そこから2つの電子波の干渉を利用して、光子がいつ1番目の水素原子に到達し、いつ2番目の水素原子に到達したか正確に計算したのです。
この分子内を抜ける光子の習慣的な時間は、水素原子間の距離によって多少誤差が生じる可能性があります。しかし、本質的にこの測定は分子内を駆け抜ける光速を捉えているのです。
こうして測定された時間は247ゼプト秒でした。
このなんとも細やかな測定によって、水素分子内にある水素原子の間を光子が通り抜ける時間が測定されました。
この研究は、分子内の電子殻が同時に光に反応していないということを初めて観測した記録でもあります。
たとえ小さな分子の中であっても情報は光の速度でしか拡散しません。そのため光に反応する電子殻にも、位置によって時間差が生じているのです。
想像を絶する短時間ですが、そこにも確かに時間差があるようです。時間とはどこまで細かく見ていくことができるのでしょうか。