細胞の安全装置を解除する
老いは避けがたく、脳細胞は時と共に劣化して知力や精神力を減退させ、時計の針を巻き戻す以外に回復することはない…。
かつては誰もがそう思っていました。
しかし今回の研究で、その常識がくつがえります。
契機となったのは、2013年にカリフォルニア大学の研究者によって発見されたISRIB(統合的ストレス応答阻害因子)と呼ばれる小分子でした。
このISRIBには細胞のストレスを遮断し、タンパク質生産能力を増加させる力がありました。
細胞はストレス状態に陥るとタンパク質生産にブレーキをかける安全装置が作動することが知られていましたが、ISRIBはそのブレーキを解除できたのです。
この安全装置は細胞の異常活動を防止するにあたって非常に有効である一方、解除の結果は予測不能でした。
そこで今回、研究者たちはこの「安全装置解除」を、年老いたマウスで実験してみることにしました。
実験対象に老齢のマウスを選んだ理由は、老化の本質はDNAに蓄積したエラーであり、細胞はそれら蓄積したエラーがストレスとなって、タンパク質の生産能力に永続的なブレーキがかけられていると考えたからです。
特に脳における活動ブレーキは、老化特有の記憶力低下や精神力の衰退の主因になりえます。
ですが逆を言えば、安全装置を解放することでタンパク質生産能力にかけられていたブレーキの解除し、若い頃と同じ知力と精神力を取り戻せる可能性があったのです。