老化は可逆的な現象だった
「脳細胞がストレスを感じなくなれば老化に起因するタンパク質生産能力の低下を回避できるのではないか?」
この仮説を証明するため、研究者たちは早速、ISRIBを老マウスに投与し、学習能力と記憶能力をはじめとした各種能力を測定しました。
結果、驚きの事実が判明します。
ISRIBを投与された老マウスたちの学習能力と記憶力が大きく回復したのです。
また解剖を行った結果、脳内で記憶を司る海馬にあるニューロンの神経伝達性(通電性)や接続性も、若返っていたことが判明します。
この事実は、ISRIBによる若返りが細胞レベルで起きていることを示すだけではありません。
薬の投与で若返ったということは、老化による知的・精神的な衰退は一方通行の後戻りできない道ではなく、条件によっては逆転可能であることを意味します。
どうやら老化に起因する知的・精神的劣化は神経回路の崩壊ではなく、神経回路を構成する細胞の質の低下(タンパク質生産量の低下)に主な原因があったようです。
さらに変化は免疫系や再生能力にも及び、損傷した神経が修復され、特定の前立腺がんに対する抵抗性の増加もみられました。
ですがより興味深い結果は、健康な若いマウスに対するものでした。
ISRIBを若いマウスに投与した結果、若いマウスでも知力や精神力の増強がみられたのです。
この事実は、細胞の活動ブレーキは問題があったときだけに働くのではなく、通常時にもある程度機能している調整ベンのような効果があり、解除によって能力のブーストが起きたことを意味します。