犬はあまり人間の言葉に興味がない?
犬は優れた聴覚を持っていて、人間の発音する「d」「o」「g」などの音をきちんと区別することができます。
また犬と人間の単語を処理するニューロンの活動には類似点があるということも報告されています。
しかし、人と暮らす犬は生涯を通じてわずかな単語しか学習しません。
犬を飼っている人は、犬が「ごはん」や「さんぽ」など一部の単語には反応する一方、ほとんどの言葉に対してはいくら語りかけても非常に鈍い反応しかしてくれないと感じているかもしれません。
今回の研究者は優れた聴覚にも関わらず犬があまり言葉を覚えない理由を、
「犬が音声のすべてに注意を向けていないためではないか?」
と仮定して今回の実験を行いました。
そこで研究チームはこの考えを検証するため、飼い主とともにリラックスした状態の犬の頭に電極を貼り付け、その脳活動の測定することにしました。
脳波測定は人間の言葉の認識などに関する研究でも、よく使われている手法で、犬に対しても有効な方法です。
実験ではこの状態で、犬にいくつかの単語を聞かせました。
それは「Sit(おすわり)」という犬には聞き慣れた単語と、「Sut」というSitと1音だけ異なる意味をなさない単語、「bep」という音も違う上意味をなさない単語です。
人間の脳では、単語に意味があるかどうかについて、単語発音の数百ミリ秒以内に異なる反応を示します。
犬は「Sit」と「bep」のような明らかに異なる言葉については、人間と同様に単語発音の200ミリ秒後から迅速に区別しました。
しかし、1音だけ異なった単語の場合、意味のある言葉と意味のない言葉を分けて判断していませんでした。
つまり犬はわずかに発音の異なる似たような単語を区別しないのです。
これは人間の大人では見られない脳波パターンですが、生後約14カ月以内の乳児に同じ実験を行うとこれと似た結果を示します。
人間の乳児も生後14カ月以内では、音声を聴覚で区別できるにも関わらず、単語すべての音を処理することができません。
しかし、生後14カ月から20カ月の間に、単語の発音の詳細を効率的に処理するようになり、飛躍的に多くの語彙を習得するようになります。
賢い犬が、なぜ人間の乳児なら容易に突破するこのハードルを、超えることができないのかは現在のところ分かっていません。
しかしこのことによって、犬は限られた人間の言葉しか理解できない可能性が高いと考えられます。
研究者は犬が人間の言葉をすべて理解できない原因について、犬の知覚的な制約や限界が問題なのではなく、言われた言葉のすべての音に注意を向けておくことができない集中力にあるのではないか、と推測しています。
犬は思ったほど真面目に人が言ってることを気にしていないのかもしれませんね。