探し物細胞は海馬にあるが対象物には興味がない
「探し物細胞」が発見されたのは、海馬の下方領域でした。
海馬は記憶の保管庫としての機能があることが知られていましたが、どうやら探し物の方向や距離といった空間的なベクトル情報も、海馬に蓄積されていたようです。
しかし研究が進むと、意外な事実が判明します。
なんと「探し物細胞」は探し物そのものには反応していないことが明らかになったのです。
つまり「探し物細胞」が行っているのはあくまで方向と距離(ベクトル)の処理だけであり、探している最中に脳裏にチラつく対象物のイメージは、別の回路の担当ということになります。
また今回の研究は、なぜ認知症の初期症状のなかに、探し物がみつからなくなるという現象が含まれるのかについても洞察を与えてくれました。
「探し物細胞」が存在する海馬は、認知症の過半を占めるアルツハイマー病において最初に委縮が起こる場所として知られているからです。
探し物細胞がダメージを受ければ終末段階での距離と方向の感覚(ベクトル誘導)が不調をきたし、どんなに整理整頓された部屋のなかであっても探し物がみつからなくなります。