打ち上げと火星への旅に必要な「質量」と「時間」
有人火星探査における最大の課題は、宇宙に打ち上げなければいけない膨大な質量(ペイロード)です。これには宇宙船や人、燃料、物資などが含まれます。
しかし、通常ロケットで運べるペイロードはほんのわずかな割合だけです。
例えば、アポロ11号を月に打ち上げたロケット「サターンV」の重量は3,000トンでした。
ところが、実際に月に届けることができたペイロードはたったの50トン(最初の発射質量の2%未満)だけです。
火星への旅行ではさらに多くの燃料が必要になります。
そのため現在のSpaceXの計画は、打ち上げられた宇宙船が、別途打ち上げられた燃料タンカーによって宇宙で燃料補充されるというもの。
燃料を分割して打ち上げることにより、質量の課題を解決しようとしているのです。
さて、この燃料の問題と密接に関係する別の課題もあります。それは時間です。
地球から火星までは非常に遠いので、なるべく移動時間とエネルギー消費を抑えた方法を見出さなければいけません。
しかも、地球と火星はそれぞれ太陽の周りを異なる軌道で公転しており、宇宙船が影響を受ける地球や火星、太陽の重力も考慮しなければいけません。
そうした状況の中で、燃料の点で効率よく移動するためには「ホーマン遷移軌道」に沿うことが大切です。
これは、ほぼ同一軌道面にある地球と火星を少ないエネルギーで移動するための軌道であり、宇宙船は火星が来る予定の位置に向けて発射されます。
ただし発射のタイミングは約2年に1度しかなく、この移動方法でも火星に到着するには約259日かかると言われています。
もっとも、SpaceXはさらに短時間(約180日)で到達できると主張していますが、そのためにはより多くの燃料が必要になるでしょう。