ハ虫類と鳥類の遺伝子を持つ哺乳類
カモノハシは分類上は哺乳類です。
しかし犬や猫といった見慣れたグループ(真獣類)やカンガルーやコアラといった袋で赤ちゃんを育てるグループ(有袋類)とは異なり、カモノハシ目(単孔類)という第三勢力に所属します。
カモノハシが他の哺乳類と最も異なる点は、産卵する習性にあります。
卵の大きさは人間の親指の先ほどで、子どもは殻を破って孵化します。
この時点で既に哺乳類かどうか怪しいですが、卵からかえった子どもに対して、カモノハシのメスは授乳することが可能です。
ただし、乳首は存在せず、母乳は汗を出す汗腺から出てきます。
乳首が全く存在しない哺乳類は、カモノハシ以外には存在しません。
そのため発見当初は、クチバシの存在も相まって、アジアのはく製職人による偽の合成品だと思われていました。
しかし、少なくとも第一印象に限っては、遺伝学的に間違いでないことが証明されます。
カモノハシの遺伝子には、本来ならば哺乳類に存在しないハズの、鳥類やハ虫類に特有の遺伝子が数多く含まれていたからです。
つまりカモノハシは見た目だけでなく、遺伝的にも哺乳類と鳥類とハ虫類のごちゃまぜだったのです。
代表的なものは、卵生に必須なヒトロゲニン遺伝子です。
ヒトロゲニン遺伝子は卵黄タンパクの一種であり、卵で増える全ての動物(魚や虫も含む)に共通して存在する遺伝子です。
人間やカンガルーなど卵で増えない哺乳類には、このヒトロゲニン遺伝子はありませんが、カモノハシは持っています。
この事実はカモノハシの先祖が誕生した当初、哺乳類はまだ独自性が弱く、卵生も含めて、ハ虫類や鳥類の特色を捨てずにいたことを意味します。
子どもを子宮で大きくして直接産み、乳首から母乳を出して育てるという私たちにとってありふれた哺乳類の姿は、実は哺乳類の歴史でも後半になってからようやく表れたものだったのです。
カモノハシはそれ以前の、太古の哺乳類の姿を残した数少ない種だと言えるでしょう。
しかしカモノハシの遺伝子は単に哺乳類・ハ虫類・鳥類の混ぜ合わせだけでは説明がつかない、異常とも言える特性がありました。
カモノハシの性染色体のとある構造は、動物よりも植物に近かったのです。
今回、科学雑誌『Nature』に掲載されたのも、この異常ともいえる性染色体の構造解明によるところが大きいと言えるでしょう。
ごちゃまぜ生物カモノハシは、植物にまで手を出していたのでしょうか?