不可解な死、9人が迎えた最期とは?
これまでの調査でも「雪崩説」が最有力でしたが、研究者らはいくつかの反対意見に答えられずにいました。
その一つが「雪崩が起きるには傾斜角30度以上が必要」というものです。
事件現場周辺の平均傾斜角は23度であり、雪崩が起きるには緩やかすぎました。
他に、現場に雪崩の形跡がないこと、遺体のケガが雪崩に見られるものとは違うことなどが挙げられています。
しかし、研究チームが事件現場の傾斜を再測定したところ、平均より5度高い28度あったと判明しました。
それから、雪崩の発生後に降り続いた積雪により、傾斜角がなだらかになり、痕跡も消えたものと思われます。
また、現場周辺の気象条件から、斜面の下層に、粒子の粗い「しもざらめ雪(シュガースノーとも)」が積もっていた可能性が浮上しました。
しもざらめ雪は、摩擦が低いために雪崩を起こしやすく、傾斜角が30度以下でも雪崩を発生させることは可能です。
さらに、現場の様子から、一行は風よけのために斜面を一段掘った場所にテントを設営したと見られています。
それを前提に考えると、斜面上層の比較的小さな雪崩でもテントを押しつぶし、遺体に見られる重傷を負わせるのに十分だということがわかりました。
シミュレーションによると、テントに落ちた雪塊は、長さ5メートルほどと推定されています。
おそらく、テント内で寝ていた夜間に突然、雪塊に押しつぶされ、内側からナイフでテントを破り、命からがら外へ脱出したのでしょう。
遺体の場所から9名全員が脱出に成功したとわかりますが、食料や衣服など重要な物資はテントに置き去りにされました。
その後、5名は極度の低体温症で死亡し、4名はなんとか助かろうと森の方へ歩いていきましたが、なすすべもなかったようです。
一方で、遺体に目や舌がないこと、高い放射能が検知された理由などは今もって説明できません。
しかし、見逃してならないのは一行の最期の姿でしょう。
研究チームのヨハン・ゴーム氏は
「彼らはテントから負傷した仲間を引きずり出し、極寒の雪山で生き延びようとしました。
残された4名が森に行くことを決めたとき、明らかに3名は動くこともままならない重傷を負っていました。それでも誰一人見捨てることなく、同じ場所で最期を迎えています。
これは、自然の残酷な力に立ち向かう勇気と友情の偉大な物語です」
と述べています。