絶滅したネアンデルタール人の遺伝子を持つ培養脳
ネアンデルタール人とデニソワ人は、人類に最も近い存在でした。
しかし人類と接触した直後、彼らは進化的なスケールからみれば、ほぼ一瞬で滅んでしまいました。
そのため彼らについて知る方法は、化石になった骨や、骨から抽出した遺伝子に限られていました。
そんな古代人の脳は柔らかい脂質の塊であり、死後真っ先に分解されてしまうため、発掘することはほぼ不可能です。
一方、近年の生物工学の進歩により、人類はたった1つの細胞からでも人間の脳を培養することが可能になってきました。
この人工的な培養脳は「脳オルガノイド」と呼ばれ、人体実験の代用品として広く用いられています。
今回、カリフォルニア大学の研究者たちは、この脳オルガノイド作成技術を遺伝子工学と結びつけ、ある種の転生を受け付ける「うつわ」としました。
もちろん、脳オルガノイドにネアンデルタール人の魂が入るわけではありません。
入るのは、彼らの遺伝子です。
元となるヒト万能細胞の遺伝子の一部を、化石から抽出したネアンデルタール人の遺伝子(中身)と入れ換えて培養することで、ネアンデルタール人の性質をもった脳オルガノイドを作れるのです。
そのために研究者たちはまず、人類とネアンデルタール人の遺伝子を比較し、違いを探しました。
結果、61カ所の遺伝子(タンパク質のコード部分)で種族的な違いをみつけます。
その中でも研究者たちの目を最も引き付けたのは「Nova1」と呼ばれる遺伝子でした。
「Nova1」は脳の発達において「調節役(選択的スプライシングを行う)」として知られる重要な遺伝子だったからです。
研究者たちはさっそく元となる細胞の「Nova1」を人類型からネアンデルタール人型に入れ替え、脳の培養をはじめました。
研究者たちの予測どおり、脳オルガノイドを「ネアンデルタール人化」できたでしょうか?