月に建設されるノアの方舟
月面は、人間が長期間生活しようとした場合、厳しい環境です。
気温はマイナス25℃を下回り、水も空気もありません。しかし、それは逆に種の保存施設にとっては好ましい環境と言えるのです。
先程の紹介した「スヴァールバル世界種子貯蔵庫」は低温を保つために永久凍土層に建設されていましたが、何百年も低温を維持して生物種のサンプルを保存しようとした場合、月面の低温は逆に有利です。
実際、月面基地建設が進行しなければ実現は難しい話ですが、それほど荒唐無稽な計画ではない、と研究者は語ります。
月面には約200本近くの溶岩洞が見つかっています。
何十億年も昔の月は地下に溶岩が流れており、その通り道となった場所が空洞の洞窟となって現代に残っているのです。
溶岩洞は直径約100m近い大きさがあり、何十億年もの間、太陽放射や微小隕石の落下、表面の温度変化から守られてきました。
この溶岩洞が、施設の建設候補地です。
溶岩洞を利用した月面基地計画は、かなり以前から存在するアイデアで妥当なものだと言えるでしょう。
また、月表面にソーラーパネルを設置し、それが施設への電力供給を賄うことになります。
これは月面の低温環境と合わさって、かなり理想的な生物種の貯蔵庫になるでしょう。
タンガ氏の発表では、この施設では植物以外にも、あらゆる生物の精子や卵子のサンプルを670万種保存することを計画しているといいます。
彼はこの670万種のサンプルを実際月輸送する場合、どの程度のコストがかかるかも計算しました。
結果、各生物種それぞれに約50のサンプルを用意して月輸送した場合、約250回のロケット発射が必要になります。
ちなみに国際宇宙ステーションの建設では、資材輸送のために40回のロケット発射を行っています。
これを比較した場合、670万種の生物サンプルを月面に輸送して保存するというのは、それほどクレイジーな大きさにはならないと氏は語っています。
いずれ地球で壊滅的なイベントが起こり、文明が崩壊したとしても、月面に地球再生のための種が残ることになるのでしょうか?
それは恐ろしい話ではありますが、SF的なロマンに溢れた話にも感じられます。