現代人につながる共通祖先が浮かび上がってこない
ダーウィンは、1871年の著作『人間の由来(The Descent of Man)』の中で、人類はアフリカで現生種とは異なる類人猿から生まれたことを指摘しました。
当時は化石が少なかったため、ダーウィンは慎重な姿勢を崩しませんでしたが、それから150年の間に、ヒトとチンパンジーの分岐時期に近いとされる類人猿の化石がたくさん見つかります。
アフリカやヨーロッパ、ユーラシアで50種以上の化石が出土し、その数が増えるごとに人類進化のストーリーも複雑化していきました。
そのため、これらの類人猿が果たした進化の役割について、科学的な意見の一致が見られていないのが現状です。
人類の起源を探る方法には、大きく2つのアプローチがあります。
1つは、現生する類人猿(ヒト、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンなど)の分析から起源に迫る「トップダウン型」。
もう1つは、絶滅した類人猿の系統樹から進化を追っていく「ボトムアップ型」です。
しかし、研究チームは、両アプローチによる先行研究を分析しながら、いずれかに依存することの限界を指摘します。
例えば、トップダウン型では、現生する類人猿が、すでに絶滅してしまった、より大きなグループの数少ない生き残りにすぎない、という事実を無視することがあります。
反対に、ボトムアップ型では、個々の類人猿の化石に、既存の進化のストーリーに見合った役割を無理に与えがちです。
そこで研究チームは、ダーウィン以降に発表された先行研究を対象に、トップダウン型(生きている類人猿)とボトムアップ型(化石上の類人猿)の両データを突き合わせてみました。
その結果、「人類の起源や進化に関する既知の仮説は、現在見つかっている類人猿の化石からは導き出せない」と結論づけています。
現生人類の起源の解明には、ヒトとチンパンジーの最後の共通祖先の形態、行動、環境を再構築できなければなりません。
しかし、本調査によると、類人猿の化石は非常に多岐にわたっており、そこから今の類人猿(ヒトを含む)につながるような最終共通祖先の姿は、どうしても浮かび上がってこないのです。
研究主任のセルジオ・アルメシア氏は「化石からは、現代の類人猿とは異なる独自の形質を持った共通祖先が出来上がってしまう」と説明します。
この結果を受け、同チームのケルシー・ピュー氏は「類人猿の化石に見られる特徴は、時にユニークで、時に予想外です。
人類の起源を理解するには、どの特徴が類人猿からヒトに受け継がれ、どの特徴がヒトに固有のものなのかを見極めなければならない」と述べています。
いぜれにせよ、私たちの「出発点」を復元するには、さらなる類人猿の化石が必要となるでしょう。