腸呼吸で生存時間が延びた!呼吸不全も改善
腸呼吸の研究は、従来の人工呼吸法を改善する目的でスタートしました。
人工呼吸は、専用の機械を患者の気管に通して肺に空気を送り込むもの。
中でも、ECMO(エクモ、体外式膜型人工肺)は、患者から取り出した血液を人工肺で酸素化し、二酸化炭素を除去して、再び患者に戻すため、体への負担がかなり大きいです。
この負担やリスクを減らすため、研究チームは、ドジョウの腸呼吸に注目しました。
ドジョウは酸素が少ない環境に置かれると、エラだけでなく腸でも呼吸を始めます。彼らは酸素不足に反応し、肛門付近の腸組織を変化させることで、効率的に酸素を取り込めるのです。
また、ドジョウの腸の粘膜がとても薄いため、酸素が腸組織を透過して血管に入り込みやすくなっています。
チームは、哺乳類の腸でも酸素を吸収できるかどうか確かめるべく、マウス、ラット、ブタを用いた実験を行いました。
方法は、低酸素状態に置いたモデル動物を、高濃度の酸素が溶け込んだ液体につけ、お尻から腸にその液体を送り込むというもの。
その結果、すべてのモデル動物で血中の酸素量の大幅な増加が確認され、生存時間も低酸素状態で放置したグループと比べ、数十分単位で伸びていました。
さらに、ドジョウの腸条件に近づけるため、モデルマウスの腸の粘膜をはがして実験してみると、何もしなければ5〜10分で死んでしまうのに、75%が1時間以上生き延び、呼吸不全が改善されたのです。
これはブタでも同じ効果が確認され、腸を含む臓器への副作用も見られませんでした。
この結果を受け、研究主任の武部貴則氏は「現在、新型コロナウイルス感染症で、人工呼吸器が足りずに命を落とすケースが報告されています。
今回の腸呼吸は、人工呼吸の選択肢を増やすとともに、肺に負担をかけない新たな治療法として確立できるでしょう」と述べています。