6種類の分子スイッチが連鎖反応を引き起こす
心臓の自己組織化させるにはどうすればいいか?
答えを得るために、研究者たちは基本に立ち返って、胎児の発達段階を模倣する刺激を幹細胞に対して行うことにしました。
胎児の心臓が作り上げられていく過程を最初から再現することで、自己組織化を成功させようとする戦略です。
研究者たちは刺激剤の候補となる様々な化学物質やタンパク質を、様々な組み合わせや順番で幹細胞に注ぎ込む地道な実験を繰り返しました。
そして長い試行錯誤の末、6種類の因子をタイミングよく加えることで、心臓の自己組織化が行われることを発見します。
これらの因子が正しく加えられた幹細胞は、心臓の細胞に変化したのちに、次第に集まって内部に空洞をもつ球形の細胞塊になります。
さらに上の動画のように、本物の心臓と似た拍動を開始したのです。
また研究者たちが球体を詳しく調べた結果、拍動する心筋層に加えて、内部には心臓の血管系に必要な内皮層、外部には心臓の成長や再生にかかわる心外膜層が存在することが判明します。
この段階の心臓は構造的に、妊娠後28日目の胎児の左心室に似ています。
同時期のヒト胎児でも、血液を送り出す左心室は心臓の中で最初に発達する構造として知られています。
以上の結果は、幹細胞の適切な刺激によって心臓の自己組織化が行われ、心臓オルガノイドが完成したことを示します。
そうなれば、次はいよいよオルガノイドを用いた疑似的な人体実験です。
研究者たちは生きている人間の心臓では試せないさまざまな実験にとりかかります。