バラバラだった細胞たちが勝手に集まって臓器となる「自己組織化」
近年の急速な幹細胞技術の進歩により、単一の細胞から脳を含む多様なヒト臓器を培養できるようになってきました。
多能性を持つ幹細胞に対して適切な刺激を与えることで、脳や肝臓、皮膚、生殖器などあらゆる種類の細胞に変化させることが可能です。
興味深いことに、細胞たちの多くには自然に集まる性質があり、さらに適切な刺激を加えると実際の臓器を模倣するような複雑な構造を形成しはじめます。
この不思議な現象は「自己組織化」と呼ばれています。
例えばヒト脳細胞を培養して自己組織化させた場合、寄り集まった細胞は大脳や小脳など脳の各パーツに分化し、最終的には胎児の脳に似た複雑な脳波を発するようになります。
自己組織化の過程は高度に自動化されており、進行には特段の操作を求められません。
この恩恵は非常に大きく、研究者たちは細胞の持つ自己組織化を利用してさまざまな人工培養臓器(オルガノイド)を作り出し、人体実験の代用品として用いてきました。
しかし唯一、心臓の自己組織化だけは上手くいっていませんでした。
心臓は子宮の中で最初に形成される臓器の1つでありながら、外部環境での培養はとても難しかったのです。
そのため既存の技術で細胞から心臓を作ろうとする場合、3Dプリントなどの外部的な方法で「形作り」を行わなければなりませんでした。
ですが今回、オーストリア科学アカデミー(IMBA)の研究者たちは、あえてこの難題(心臓の自己組織化)に挑み、成功します。
困難だった心臓の自己組織化を、研究者たちはいったいどんな方法で成し遂げたのでしょうか?