お医者さんの欲しい情報
トイレで便をしたとき、出来上がったその作品をじっくり眺めたりする人は稀でしょう。
ほとんどの人は、あまり見ないで流してしまいます。
しかし、それがお医者さんにとっては患者の健康状態を理解するための重要な情報となる場合があります。
「通常、胃腸科医は、胃腸問題の原因を特定するために、患者の自己申告による便の情報に頼らなければなりません。
しかし、これは非常に信頼性が低い可能性があります。
患者には、便がどのように見えるかは不確実で、またこの他に重要な排便の頻度を思い出せない患者も多くいます」
今回の研究を発表した米国ノースカロライナ州ダーラムにあるデューク大学医学教授デボラ・フィッシャー氏は、胃腸症状の診断における問題をそのように説明しています。
そこで今回登場したのが、慢性的な胃腸問題を抱える患者向けに、日頃のトイレにおける情報を長期間正確に収集できるスマートトイレテクノロジーなのです。
この技術は、既存のトイレに後付けで設置することが可能です。
利用者が排便してそれを流そうとすると、トイレは便の画像を撮影し、人工知能がその画像を分析します。
ある程度の期間にわたり収集されたデータは、消化器病専門医に提供されます。
便の形態や出血の有無などの正確な情報は、患者の状態に応じて、適切な治療を提供するために役立てられます。
このスマートトイレの人工知能画像解析ツールを開発するために、研究者たちはネットで見つけたり、研究参加者から提供された3328枚もの便の画像を分析したそうです。
このすべての画像は、臨床的に便を分類するための一般的な方法であるブリストル・スツール・スケール(Bristol Stool Scale)に基づいて、消化器系の専門家によって評価されました。
こうした資料を使って、研究者たちは画像分析の深層学習アルゴリズムである畳み込みニューラルネットワークを使ってAIに学習させ、便の形態を85.1%の精度で分類することに成功したのです。
また、肉眼で確認できる出血は76.3%精度で検出しました。
この技術を使えば、患者はただトイレを普段どおりに利用して水で流す以外する必要がないため、導入が容易だと主任研究員のソニア・グレゴ博士は述べています。
こうした技術は、他に慢性的な胃腸症状を抱える介護施設の患者などに役立つ可能性があるといいます。
慢性的な胃腸症状は、治療を行ってもいつまた再燃するかわかりません。急性症状の初期診断を改善するために、この技術は有用なのです。
安倍元首相も、潰瘍性大腸炎という過敏性腸症候群によく似た慢性的な胃腸の病気に悩まされていたといいます。
こうした病気はいったん落ち着いてもいつまた再発するかわからないため、日頃から便の状態などをチェックし、その兆候を知っておく必要があります。
しかし、それを個人で管理するというのは、かなり大変です。
トイレが自動で診断を行って医師と共有してくれる技術というものは、将来的に非常に多く人々を救う可能性があるのです。
現在この技術は、まだプロトタイプで一般向けに公開されているわけではありません。
しかし、患者と胃腸科医、双方のニーズを満たす技術として、今後の発展に期待が持たれています。