聴覚だけが原因ではなかった ミソフォ二アの不思議な症状
これまで、ミソフォ二アは音の処理能力に対する障害だと考えられてきました。
特に2017年に発表されたミソフォ二アの神経学的調査では、トリガー音が感情の処理に関与する脳領域に作用しているという報告がされています。
ただ、この研究には欠点が多いという主張もあり、結局ミソフォ二アの引き起こされるメカニズムは明確になっていませんでした。
今回の英国ニューカッスル大学の研究チームは、ミソフォ二アの症状が主に食事中の咀嚼を引き金に、一貫して報告されることが多いという点に着目して調査を行いました。
チームは、ミソフォ二アとそうでない人を含む75人を集め、fMRIで音に対する彼らの脳内の反応をスキャンしました。
調べられた音は、無音、ミソフォ二アのトリガー(咀嚼音)、誰にとっても不快な音(悲鳴など)、中立音(雨の音など)です。
結果、ミソフォ二アの人は、トリガーとなる音に対してだけ、聴覚野と口や喉、顔に関連する運動野の間に異常な接続を起こしていることがわかりました。
これは「過敏な接続」と表現することもできます。
この特定の運動野との接続は、ミソフォ二アの人たちが、咀嚼や嚥下などの音のみに強く反応し、他の音にはあまり反応しないことに関連していると考えられます。
さらに研究者を驚かせたのは、聴覚とは関係ない、視覚領域と運動領域の間にも同じようなパターンの異常接続が確認されたことです。
研究筆頭著者であるクヴィンダル・クマール(Sukhbinder Kumar)氏は、この結果を見て、「ミラーニューロンシステム」が活性化しているのではないか、という仮説を考えています。
ミラーニューロンとは、他者の行動を見て、その動作と同じ脳内の神経細胞が活性化する、いわゆる脳内の鏡のような反応のことをいいます。
「ミソフォ二アの人は、他人の咀嚼する様子を見て、脳内のミラーニューロンシステムが不本意に過剰活性してしまい、まるで他人の発した音が自分の中に侵入してくるような感覚に陥っている可能性があります」
クマール氏はそのように、ミソフォ二アの感じる強い不快感や嫌悪感の原因を説明しています。
もちろんこれはまだ仮説の域をでていません。
今回クマール氏が提案したミラーニューロンシステムは、一部のサルにのみ確認されている反応で、人間の脳内でも同じような活動が存在するかどうかについては、まだ議論の段階にあります。
ただ、このミラーニューロンミソフォ二ア仮説にはかなり説得力があるのも事実です。
クマール氏は、ミラーニューロンがミソフォ二アの原因だとすると、不快な音の原因となるような他人の動作を真似することで、症状を緩和できる可能性があると話します。
音の生成アクションを模倣することで、体が音をコントロール可能な自分のものだと認識し、感覚を回復させることができるというのです。
クチャラーの真似なんてできるかよ! と思う人もいるかもしれませんが、もしかすると、くちゃくちゃという咀嚼音をたてる真似をすることで、他人の咀嚼音がそれほど不快ではなくなるかもしれません。
ミソフォ二アの治療法については、これまで脳内の音の中枢に焦点が当てられてきました。
しかし、今回の研究結果は、ミソフォ二アについて、音以外に焦点を当てた新しい効果的な治療法を開発するために役立つ可能性があります。