奇妙な減光を見せる巨星
今回の研究は、ケンブリッジ大学天文学研究所(Institute of Astronomy – University of Cambridge)のリー・スミス(Leigh Smith)博士が中心となり、エディンバラ大学、ハートフォードシャー大学、ポーランドのワルシャワ大学、チリのアンドレス・ベロ大学の科学者が参加した天文学国際チームから発表されました。
このチームは、地球から2万5000光年離れた銀河系中心部にある、太陽の100倍近い巨星「VVV-WIT-08」が空から消えそうになっているのを観測したのです。
しかし、この巨星は完全に消失したわけではありませんでした。
巨星は徐々に暗くなり、明るさが通常の30分の1まで減光しましたが、数カ月かけてもとの明るさに戻っていったのです。
明るさを変化させる変光星の存在は、別段宇宙で珍しいものではありません。
しかし、今回の「VVV-WIT-08」の点滅が奇妙なのは、よく知られている変光星の原理に当てはまりそうもないところです。
変光星が明るさを変える原理の1つは、ミラ変光星のような核融合による膨張と自重による収縮の繰り返しによるものです。
また、連星との食によって明るさが変化して見えるものもあります。
しかし、今回の発見で問題となるのは、数カ月間も続くという長い減光期間と、通常時の3%(30分の1)まで暗くなるという極端な減光です。
巨星自体の膨張収縮は考えにくいため、ありえそうな状況は、暗く非常に大きな細長い物体が地球とこの巨星の間を遮って通過したということです。
はじめ、研究者たちはこの星が、天の川銀河中心部の星の密集地帯にあったため、そんな暗黒物体によってたまたま遮られたのではないかと考えました。
けれどシミュレーションを行った結果、このシナリオが成立するためには、銀河系内に信じられないほど多くの暗黒天体が浮遊していなければならないとわかったのです。
そうなると考えられる可能性は、暗い巨大な塵の円盤を持った伴星が、「VVV-WIT-08」の周囲を回っているという状況です。
一応、こうした状況に該当する連星系というものは、過去にいくつか見つかっています。
1つは古くから知られている「ぎょしゃ座イプシロン星」で、27年ごとに巨大な円盤状の塵によって部分的な食を起こします。
ただ、この場合の食は50%(2分の1)程度の減光しか起こしません。
数年前に発見された「TYC 2505-672-1」という星は、連星系としてはもっとも長い69年という公転周期で食を起こし、減光期間は3.5年も続きます。
こちらの方が、「VVV-WIT-08」と同じ候補天体と言えそうです。
いずれにせよ、今回の「VVV-WIT-08」の減光は、非常に珍しい新しいタイプの連星系である可能性があるのです。