「音楽の場」にいる脳内はどうなっている?
今回の研究は、コロナ禍の中で社会的に距離を置きながらも、Zoomなどを通じて音楽を楽しんでいる世界中の人々にインスパイアされたとのこと。
また本研究は、人が個別に音楽を楽しむ時ではなく、複数人で音楽の場を作る時に脳内で何が起こるかに着目した点でユニークです。
研究チームは、音楽と社会神経科学の分野の最新データを総合することで、脳モデルを新たに作成しました。
結果、音楽を介した人と人との社会的つながりに貢献する5つの脳内メカニズムが浮かび上がっています。
1つ目は、共感回路(empathy circuits)です。
共感性は、相手の気持ちや考えを汲み取るための能力で、複数人での合唱や演奏によって向上します。
2つ目は、オキシトシン分泌(oxytocin secretion)です。
オキシトシンは、他人との社会的な結びつきを感じさせることから「愛情ホルモン」とも呼ばれており、即興であっても、仲間と一緒に歌うことで分泌されます。
3つ目は、ドーパミン放出を含む、報酬・動機づけ(reward and motivation, including dopamine release)です。
ドーパミンは、快感をもたらす神経伝達物質で、音楽的な期待により分泌され、報酬やモチベーションの感覚に重要な役割を果たします。
4つ目は、言語構造(language structures)です。
脳内の言語構造は、音楽会場での一体感(いわゆる、コール&レスポンス)に関与します。
そして5つ目は、コルチゾール(cortisol)です。
コルチゾールは、ストレスの原因となるホルモンですが、グループで一緒に歌ったり、演奏したりすると、脳内のコルチゾールが減少することが分かっています。
これら5つのメカニズムには、少なくとも12の脳領域と2つの神経経路がかかわっており、それらをマッピングすると以下のような脳モデルが完成します。
今回の研究は、音楽を聴くことに主眼を置いた従来の認知神経科学に加えて、「音楽の社会神経科学(social neuroscience of music)」と呼ばれる新しい分野の基盤となるものです。
本研究主任でプロの音楽家でもあるデビッド・グリーンバーグ氏は、次のように述べます。
「音楽は異文化同士をつなげる重要なツールです。
音楽の社会的神経科学をより深く理解することは、世界中の社会的結びつきの改善、とくに紛争中の地域間において重要な役割を果たします。
それにより、音楽は単なる娯楽を超えて、人間社会の中核的な機能を担うことになるでしょう。」