「単純な報酬」とは別に「大変だけど頑張る」ために必要な回路
ドーパミンの異なる2つの受け手が「報酬」と「コスト」のバランスや種類とどのようにかかわるのか?
謎を調べるため、研究者たちはまずサルに対して、バーをニギニギするという特定の行動を行うと報酬としてジュースがもらえることを教え込みました。
そして報酬の量、必要とする行動の回数(労力コスト)、報酬をもらえるまでの待ち時間(時間コスト)をさまざまなパターンで実行しました。
すると予想通り、コストが大きく報酬が少ないほど、サルは報酬を得るための行動を途中であきらめてしまう確率(拒否率)が高くなることが判明します。
次に研究者たちは2つのドーパミンの受け手(D1受容体とD2受容体)を遮断する2種類の薬を与え、同じ実験を行いました。
まず両方の薬を同時に与えた場合、サルの脳内では「やる気」物質ドーパミンの伝達が全面的に遮断され、少ない報酬に対しては行動を起こさなくなりました。
ですがD1受容体とD2受容体を個別に遮断した場合には、異なる反応をみせたのです。
興味深いことに、D2受容体を遮断した場合のみ、サルは報酬を得るための労力を出し渋る「面倒くさがり」になってしまいました。
労力コストを払わなければ当然、報酬のジュースは得られません。
ですが「やる気」を失ったサルは報酬よりも働かないことを選択したのです。
一方、報酬までの待ち時間の耐性に対しては、D1受容体・D2受容体いずれかの経路の遮断でもサルのあきらめ率が高くなりました。
時間コストに耐えられなくなったサルはジュースが出てくる前に装置から去ってしまいます。
当然ジュースはもらえませんが、報酬を得るための時間を、サルは自分のために使ったのです。
この結果は、報酬に対する純粋な「やる気」と待ち待ち時間に対する耐久度が共にD1受容体およびD2受容体の働きとリンクしていることと、労力に対してはD2受容体のみに依存する独自の判断経路があることを示します。
同様の時間コストと労力コストに対する感受性の違いは、サルと進化的に近い人間にもみられるかもしれません。
同じ人間でも、限定商品のためならば何時間で並んでいられるという人が、ちょっとした手続きをおっくうがって、その商品を逃すこと(あるいはその逆)があるからです。