一芸に秀でる者が多芸に通じるのは共通回路を利用しているから
成果を求めるなら、学習や練習は必須です。
そのため受験勉強やコンクールなどに挑む多くの人々は、多大な時間を努力に費やしています。
一方で古くから「一芸に秀でるものは多芸にも通じる」という奇妙な現象も知られていました。
例えば、天才数学者がプロ級の楽器演奏の腕を持っていたり、ノーベル物理学者が優れた歌人でもあるという、天が2物を与えた、うらやましい事例です。
この奇妙な現象は現代の脳科学でも主要な研究テーマの1つであり、数多くの研究が世界中で成されています。
一説には、一芸をマスターした人々は「成功のコツ」のようなものを掴んでおり、別分野にもコツを当てはめ、極め易くなっているとのこと。
この「成功のコツ」を脳科学の言葉で翻訳すれば「共通回路」となります。
一芸をマスターすることで鍛え抜かれた神経回路は別分野の技能にも応用可能だと、脳科学者たちは考えているからです。
問題は「成功のコツ(共通回路)」の有効性が、一方通行かどうかです。
特に近年、研究者たちが着目しているのが「外国語」と「音楽」の関係です。
これまでの研究により、音楽的なトレーニングを行うことで外国語のスキルが上達することが判明しています。
外国語スキルも音楽スキルも、脳内の音を処理する領域を「共通回路」としているため、脳を音楽で鍛えると、外国語のスキルも勝手に上がっていくという現象が起きるのです。
しかし既存の研究で示されているのは「音楽のトレーニング→外国語の上達」という一方通行のみでした。
そこで今回、フィンランドのヘルシンキ大学の研究者たちは、逆ルートにあたる、外国語の学習が音楽的能力に与える影響を調べることにしました。
結果、これまでの説を引っくり返すような結果が得られました。
勉強していない分野への学習成果が「拡大しながら伝播」していたのです。