母乳で育てられた赤ちゃんは感染症になりにくい
GBS感染症には生後1週間から3カ月後でも発症する「晩発型」と呼ばれるものがあります。
この晩発型GBS感染症の発症率は、母乳で育てられた乳児より、ミルクで育てられた乳児のほうが高いという報告があります。
今回の研究者であるヴァンダービルト大学の大学院生レベッカ・ムーア氏は、このことから、母乳に含まれる糖分にGBSから身を守るなんらかの因子が存在すると考えました。
そして、複数の異なるドナーの母親の母乳から分離した「ヒトミルクオリゴ糖(HMO)」を組み合わせて、胎盤の免疫細胞(マクロファージ)と卵膜(胎児を包む膜)のGBS感染に及ぼす影響を調査したのです。
すると、HMOがマクロファージと膜の両方で細菌の増殖を完全に抑制できることがわかりました。
試験管の研究が良い成果を出したため、ムーア氏はすぐにマウス実験に移行しました。
ここではGBS感染が妊娠中のマウスの生殖器を介して広がるのを、HMOによって防げるかどうかが調査されました。
その結果、「生殖管の5つの異なる部位で、HMOの投与によりGBS感染が有意に減少するのを確認できた」とムーア氏は述べています。
この効果の理由を明らかにするため、研究チームは培養プレートで人工的なマイクロバイオーム(細菌叢)を作り、そこに植物由来のガラクトオリゴ糖(GOS)を添加してみました。
ガラクトオリゴ糖は、よく粉ミルクに添加されるオリゴ糖です。
すると、GOSがない状態では、GBSが善玉菌の増殖を抑制していたのに対し、GOSを添加した場合は善玉菌が増殖できたのです。
研究チームはこれを、善玉菌がオリゴ糖を餌として利用することで、増殖を支援されGBSの妨害を克服できたのだと考えました。
しかし不思議なことに、最初にテストされたHMOでは、この効果が確認できませんでした。
母乳には200種類以上の特殊な糖類が含まれていて、今回の研究は、その組み合わせで行われています。
そのため、一部の糖類は、GOS同様に善玉菌の増殖をサポートする作用があるようですが、そのほかにもHMOには、GBS感染症を治療予防する作用があると考えられます。
研究者は、その理由として「HMOには病原体が組織表面に付着してバイオフィルムを形成するのを防ぐ作用があるのだろう」と話します。
バイオフィルムはいわば細菌の作り上げる都市のようなもので、これが形成できないと細菌は思うように活動したり、攻撃に耐えることができなくなります。
「HMOは人間と同じくらい古くから存在していましたが、細菌はHMOを理解できていません。
それは母乳に含まれるたくさんのHMOが、赤ちゃんの成長過程と共に常に変化しているためでしょう。
ただ我々もまた、どのHMOがどのように作用するのか特定できていません。
これが分かれば、赤ちゃんだけでなく、大人に対しても抗生物質の代わりとなる新しい治療法が提供できるかもしれません」
と研究者は言います。
抗生物質に代わる新しい治療方法は、ヒトの母乳に重要なヒントが隠されているようです。