「日焼け」のシステムが、性ホルモンの分泌を促す
紫外線は、波長の違いによって、UVA(紫外線A波)・UVB(紫外線B波)・UVC(紫外線C波)の3つに分けられます。
UVCは危険な高エネルギーであり、オゾン層に吸収されるため、地表には届きません。
UVAは、地表に届く紫外線の90%を占めており、窓ガラスなども通過して皮膚に到達します。
UVBは、海辺といった屋外の強い紫外線で、多量に浴びると、炎症や日焼けの原因となります。
研究主任のカーミット・レヴィ氏は「太陽光からの紫外線が男性のテストステロン値を上昇させることは、何年も前から知られていました。
また、太陽光が性行動やホルモン調節に大きな役割を果たしていることも分かっています。
しかし、このホルモン調節の詳しいメカニズムは不明でした」と話します。
そこで研究チームは、まず、動物モデルを用いて、波長320〜400ナノメートルのUVBをマウスに照射しました。
結果は劇的なもので、メスのホルモン値が大幅に上昇し、卵巣が肥大化して発情期が延長されたほか、オスとメスの間の性交渉が急増したのです。
実験の第2段階として、今度は、マウスの皮膚から「p53」というタンパク質を除去して、同じUVB照射を行いました。
p53タンパク質は、太陽光を浴びたときに生じるDNAの損傷を識別し、そのダメージから身を守るために色素形成を活性化するものです。
実験の結果、p53を除くとUVBによる性行動への影響がなくなったことから、ホルモン、生理、性行動の変化には、皮膚の保護システムが関与していると予想されました。
最終段階として、チームは、32人の成人男女を対象に、UVBフォトセラピー(光療法)とアンケート調査を実施。
その結果、UVBの照射で男女ともに恋愛感情が高まり、さらに男性において攻撃性が高まったことが報告されています。
また、被験者に2日間日光を浴びないようにしてもらった後、約25分間の日光浴をすると、これと同じ結果が得られました。
実験後の血液検査では、UVBを浴びると、その1日前に比べてテストステロンなどのホルモンが多く分泌されることが判明しています。
以上の結果について、レヴィ氏は、次のように説明します。
「皮膚には、太陽光からの紫外線に対処するさまざまなメカニズムがあり、その一つがp53タンパク質です。
紫外線を浴びることは危険であり、皮膚がんのようにDNAを損傷する可能性があることを忘れてはなりません。
しかし同時に、DNAの損傷を防ぐために、太陽光を浴びた後に活性化される、皮膚に組み込まれた2つのプログラムがあります。
それは”DNA修復システム”と、日光を浴びた程度に応じた色素沈着、すなわち”日焼け”です。
p53タンパク質は、この2つのシステムを活性化することで、DNA損傷のレベルを調節しています。
さらに本研究から、このシステムが同時に、性ホルモンの分泌を司る内分泌系の調節にも影響を与えて、恋愛感情を高めることが分かりました。」
つまり、日焼けをしている最中に、恋愛感情も高まっているというわけです。
この発見は、将来的に、性ホルモン疾患のUVB治療などへの応用が期待されています。
また、日常的には、吊り橋効果のような恋愛トリックとしても活用できるかもしれません。