女性が読んでいたのは「ラブレター」だった?
『窓辺で手紙を読む女』については、多くの専門家により多様な解釈がなされています。
その一部を紹介すると、開かれた窓は「女性が自分の置かれている環境から脱出したいという願望である」とか、ベッドの上にこぼれた果物は「性的暗示や不倫関係の象徴」などと言われています。
また、女性が光から目を逸らしてうつむき、頬を紅潮させていることから、「神への罪悪から目を背けている」と主張されています。
こうした解釈を見ると、本作からはかなりネガティブな印象を受けますね。
しかし、コジャ氏は「キューピッドが復元されたことで、本作の意味は大きく一変する」と言います。
キューピッド(Cupid)は、ローマ神話で愛や恋の神のシンボルです。(ギリシャ神話ではエロースに当たる)
構図の中に「愛の神」を配置したことで、偽装や偽善を乗り越える誠実な愛の証しとして捉え直すことができます。
この解釈に沿って見ると、女性が読んでいる手紙は、想いを寄せる男性から送られてきたラブレターで間違いないとのこと。
また、キューピッドの前にある2つの仮面は、過去の時点における男性への恋愛感情の否定。
それをキューピッドが踏みつけているということは、女性は今、男性に心からの愛情と恋慕を抱いているということです。
コジャ氏は「フェルメールは本作の中で、人間存在についての根本的な疑問を投げかけている。
この絵は、表向きの愛の意味合いを超えて、真実の愛についての本質的な主張をしているのではないか」と指摘します。
その一方で、キューピッドを隠した人物や、その意図は明らかになっていません。
美術史家らは「作品をより収益性の高いものにするためのオーバーペインティングではないか」と推測しています。
比較的無名だったフェルメールの絵からキューピッドのモチーフを取り除くことで、当時の美術商は、本作をレンブラントのように、より著名な画家の作品と偽ることができたのかもしれません。
実際、『窓辺で手紙を読む女』は、1742年にポーランド王のアウグスト3世が、レンブラントの作品であるという嘘の鑑定のもと本作を購入し、ドレスデンにあった自身の美術品コレクションに収蔵しています。
この絵がフェルメールの作と判明したのは、19世紀後半のことでした。
今では、フェルメールの現存する35作品における傑作の一つとして数えられています。
本作は、来月10日から来年の1月2日まで、ドレスデン国立古典絵画館で展示予定で、その後、1月22日〜4月3日まで、東京都美術館で公開されます(「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」)。
所蔵館以外で展示は、世界初とのことです。