どこかがおかしい夜空に輝く電波フレア
VLAは直径25mもある巨大なパラボラアンテナを27機並べた巨大電波望遠鏡群です。
2017年に、このVLAを使った掃天観測(広く宇宙をスキャンする観測)「VLASS」が実施されました。
カリフォルニア工科大学の大学院生ディロン・ドン氏は、こうした電波観測のデータから電波過渡現象という、短命な電波波長の明るい発光現象を探していました。
電波過渡現象は、大質量星の爆発や、中性子星の合体など、異常な天文学的現象を発見するために有効だったからです。
そして、ドン氏はVLAの膨大なデータの中から、「VT 1210+4956」と名付けられた非常に明るい電波源を発見したのです。
これは以前に行われた同様の電波掃天観測(FIRST)の中には、見つかっていない天体でした。
そこで、彼はこの天体を詳しく調べてみることにしたのです。
その結果、この明るい電波源は、地球から約4億8000万光年離れた矮小銀河の周辺であることがわかりました。
そして、その原因が星から放出されたガスが殻のように周辺の空間を包み、そのガスシェルに超新星爆発によって吹き飛ばされた物質が衝突することで発生していたということも突き止めたのです。
この発見について、同じカリフォルニア工科大学の大学院生アンナ・ホー氏は、この電波現象をX線スペクトルの観測と比較してみてはどうか? という提案をしました。
そこでドン氏、90分おきに全天のX線スキャンを行っている国際宇宙ステーションに搭載された日本の全天X線監視装置(MAXI)のデータカタログを調査してみることにしました。
X線もさまざまな見えない宇宙の現象を探るために有効な観測方法です。
すると、驚いたことに今回の電波過渡現象とまったく同じ位置で2014年に明るいX線の発光が捉えられていたのです。
ここで観測されていたX線過渡現象は非常に珍しい現象で、それはブラックホールなどが物質を飲み込んだ際、降着円盤の極方向に光に近い速度で物質を吹き飛ばす相対論的ジェットを発射したことを示しているものでした。
どうやら2017年に確認された電波過渡現象は、2014年に吹き飛ばされた物質が、数世紀前に星から放出された高密度のガスに衝突して起きたものだったと考えられるのです。
しかし、この2つの現象は通常関連付けられたことがなく、単独で見た場合でもそれぞれが非常に珍しい現象でした。
なぜ、そんな珍しい現象が宇宙のまったく同じ場所で立て続けに起こったのでしょうか?