2つの異変をつなげる推理
「VT 1210+4956」で一体何が起こっていたのか?
ドン氏を中心とした研究チームは、観測された事実をつなぎ合わせる現象を慎重にモデル化させました。
そして、もっとも可能性の高い説明を見つけたのです。
チームはここに非常に重い天体の連星があったと考えました。
太陽よりもはるかに巨大な星は、連星のペアとして誕生することが珍しくありません。
2つの星は互いに密接して周回していましたが、一方の星が先に寿命を迎え超新星爆発を起こして、非常にコンパクトなブラックホールか超高密度の中性子星となりました。
このブラックホール(または中性子星)は、約300年前に伴星の大気圏に突入し、星のガスを周囲の宇宙空間へと放出し始めたのです。
それは螺旋状にガスを舞い上げて天体をトーラス(ドーナツ状)に包み込むガスの殻を形成しました。
そしてこのブラックホールは、ついに伴星のコアに侵入します。
そして核の核融合を破壊して、コアを崩壊させ、このとき自身の周りに一時的な物質の円盤を形成し、極方向へ光の速さに近いジェットを噴出させて星を貫通させたのです。
これが2014年にMAXIに観測されたX線過渡現象でした。
そして、コアを破壊された星は崩壊し、超新星爆発を起こします。
この超新星爆発によって吹き飛ばされた物質を伴う衝撃波が、数年後ガスシェルへと到達し、その衝突が2017年にVLAで観測された明るい電波を生成したのです。
重い伴星はいずれは超新星爆発を起こす運命でした。
しかし、それはもっとずっと先の未来のことだったでしょう。
それがブラックホール(あるいは中性子星)となったペアの侵入によって、予定よりずっと早く超新星爆発を起こしたのです。
こうしたブラックホールを伴星とした連星は、通常非常に安定した軌道で回り続けるため、長いと数十億年連星としての形を維持し続けるといいます。
これが急速に接近して、伴星を崩壊させるという現象は、理論的には予想されていましたが、実際観測されたのはこれが初めてのことです。
「すべてピースが合わさって、この驚くべき物語のパズルが完成しました。
こんな現象をVLASSで発見できるとは思っていなかったので驚きの結果です」
研究チームの1人、カリフォルニア工科大学のグレッグ・ハリナン教授はそのように語っています。
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