正露丸はアニサキスを確かに殺している
これまでの研究では、アニサキスが薬剤処理で動きを停止した場合、1~2日経っても再度動かなければ「死んだ」という曖昧な判定をしていました。
しかし、これでは科学的な証拠とは言いづらいものがあります。
そこで、今回の研究者たは、死んだ組織に反応して青色に染まるというトリパンブルー染色液を使ってアニサキスの生死判定を行う実験をしたのです。
研究では通常服用量の正露丸を溶かした液にアニサキスを30分浸し、活動の停止を確認してからトリパンブルー染色を行いました。
するとアニサキスは濃い青色に染まったのです。
これはすなわち、正露丸によってほとんどのアニサキスが死ぬことを示しています。
また、生きたアニサキスは胃液の消化酵素に分解されることがないため、体に入ると1週間近く生存し続けます。
しかし、正露丸液に30分浸したアニサキスは、胃液と同じ濃度の消化酵素(ペプシン)に浸した際、24時間以内に分解が始まったのです。
下の動画は研究者がYou Tubeに投稿した、アニサキスが正露丸と胃の消化液で分解される様子です。
これらの試験管実験(in vitro研究)の結果からは、アニサキスの幼虫が、広く入手可能な胃腸薬である「正露丸」の通常用量を経口摂取するだけで、殺すことができる可能性を示しています。
研究者はこの正露丸のアニサキス殺虫効果は、正露丸の主成分である木クレオソートが、アニサキスのアセチルコリンエステラーゼという酵素を特異的に阻害することでもたらされると予想しています。
正露丸は、もともとは「征露丸」と表記された日露戦争時代に遠征する兵士に持たせた歴史ある古い薬です。
それが現代でもまだ見つかっていなかったアニサキス症にもある程度有効かもしれないというのは、本当に驚きです。
研究者は論文の最後に、「私たちの知る限り、これはアニサキスの幼虫に対して強い殺線虫活性を持っている薬の最初の報告である」と述べています。
ただ、これはあくまで試験管試験の報告のため、アニサキス症の応急処置にある程度なる可能性はありますが、アニサキス症は医療機関で外科的に取り除いてもらうことが現在唯一の治療法であることは理解しておきましょう。