琥珀にクマムシの化石が見つかったのは3度目
クマムシはかなり古くから存在しており、過去に地球で起きた5回の大量絶滅イベントをすべて乗り越えてきました。
一方で、長い進化の歴史と分布域の広さにもかかわらず、化石の記録はほとんど見つかっていません。
体が小さすぎる上に、頑丈な骨格に優れているわけでもないため、化石として保存されにくいのです。
過去に2例だけ報告されている化石は、約8000万年前の白亜紀のもので、いずれも北米で採取された琥珀中に見つかっています。
今回の琥珀化石は、共著者のフィリップ・バーデン氏(ニュージャージー工科大学)が、主著者であるマーク・マパロとハビエル・オルテガ=エルナンデスの両氏(ハーバード大学)に紹介したことがきっかけで調査されるに至りました。
マパロ氏は「琥珀の標本は、解剖用の顕微鏡では小さすぎるため、化石を完全に可視化するには特別な顕微鏡が必要でした」と話します。
このような小さなスケールでは、解剖顕微鏡を使っても化石の外見的な形態しか分かりません。
そこで研究チームは、高分子材料の内部構造を三次元的に観察できる「共焦点レーザー顕微鏡」を用いました。
結果、琥珀中に保存された体長559マイクロメートル(0.5ミリ強)のクマムシの形態的特徴を高解像度で画像化することに成功しています。
幸いなことに、クマムシの体表を構成するクチクラは、真菌類の細胞壁や節足動物の外骨格の主成分である繊維状のグルコース物質であるキチンから成ります。
キチンには蛍光性があり、レーザーで容易に励起されるため、共焦点レーザー顕微鏡を使ってクマムシの化石を完全に可視化できました。
その中でも非常に重要な2つの特徴、爪と口部装置(buccal apparatus)を調べたところ、本種はクマムシ上科・Isohypsibioideaの新属かつ新種として記載できることが明らかになりました。
新種は、新たな学名として「パラドリフォリビウス・クロノカリベウス(Paradoryphoribius chronocaribbeus)」と命名されています。
琥珀中に保存されたクマムシの化石としては、Milnesium swolenskyi、Beorn leggiに次いで3例目であり、クマムシの進化史を紐解く上でも貴重なサンプルとなります。
ちなみにですが、新種の個体は(分かっていたとは言え)完全にお陀仏していました。
クマムシの平均寿命は1ヶ月〜1年ほどですが、「乾眠(かんみん)」という不死身モードに入ると、あらゆる過酷な環境下で数年以上も耐えられるようになります。
これまでの記録では、博物館に保管されていた130年前の乾眠クマムシに水をかけたところ、もとの元気な状態に復活したと報告されています。
さすがのクマムシにも限度はあるようです。