熟練者の呼吸法を体得する新しいトレーニング
オムニ・ファイバーの服は、結果的に、研究チームが求めていた熟練者の呼吸パターンの詳細な測定と、その再現を一気に達成させることに成功しました。
これは呼吸という熟練者の独特の技術を、初心者の体に直接再生して教えるという新しい学習方法の開発でもあります。
今回の実験は、声楽教育の一環として行われましたが、同じ方法は、スポーツ選手に対して最適な呼吸方法を学習させる際にも利用できると研究者は語ります。
この衣服が筋肉群を刺激することで、状況に応じた最適な呼吸の制御を、選手に学習させるわけです。
現在はトレーニングに主眼をおいて、研究は進められていますが、この繊維の利用は最終的に医療分野でも活躍が期待できます。
現在流行しているコロナの重症患者のように、呼吸器系の病気によって大きな手術を受けた場合、患者はその後に健康な呼吸パターンを取り戻すために苦労するといわれています。
ここからの回復をサポートする際にも、この衣服が役に立つ可能性があるのです。
呼吸の生理学は実際のところ、非常に複雑です。
王立工科大学で今回の研究を行うアフサール氏は、「私たちが、自分のどの筋肉を使って、どのように呼吸の機能を構成しているのかは、実はまだよくわかっていません」と語ります。
今回の研究は、彼らがデザインした衣服を着るだけで、着用者の呼吸の重要な筋肉の使い方を、個々にモニターしその動作を再現するように、各筋肉群を刺激することができます。
研究者は、他にも呼吸が瞑想など精神に作用する機能もあると語り、うつ病などからの回復にも役立てられる可能性を指摘しています。
呼吸を極めることはさまざまな局面で重要な役割を果たす可能性があります。
しかし、それを熟練者が素人に伝えたり、医療者がその役割を十分理解するのは、これまで難しい問題となっていました。
新しい繊維は、こうした秘められた呼吸の機能を解明し、最大限に活かしていけるかもしれません。