地震と木の成長速度の関係を見抜いた水文学者
木の年輪が成長速度の指標になることは、古くから知られていました。
豊富な水と日の光、適度な気温など条件に恵まれた年では、木の幹がより速く成長するため、年輪の幅が太くなり、逆に木の生育にとって不利な条件が重なれば、年輪の幅は薄くなっていきます。
これまでの研究によって、年輪幅に影響を与える条件についてはかなり詳しく調べられており、新たな因子は存在しないかに思われていました。
しかしポツダム大学のクリスチャン・モーア氏は、2010年に起きたチリ地震に遭遇したことで「地震」が新たな条件に加わるのではないかと思いつきました。
そのキッカケになったのは、地震の後に、山の谷間を流れる小川の水量が増加していたという事実でした。
「地震」「小川の水量」「木の成長」の3つは全く関係ないように思えますが、水門学者であるモーア氏は全てが繋がって見えていたのです。
水文学とは、地球にある水の循環や分布、物理的・化学的特性を研究する由緒ある学問分野です。
その水文学のスペシャリストであるモーア氏は、小川の水量変化をみて即座に、巨大地震によって地下水脈が変動したと直感します。
そして水脈の変化は必ず、木々の成長パターンに影響せずにはいられないだろうと仮説を立てました。
モーア氏はさっそく、木の成長パターンの変化を確かめるため、山の各所にはえている木に対してコア採掘(氷床コア採掘のようなもの)を行い、年輪幅の測定を行いました。
結果、チリ地震によって谷間の木の年輪が太くなった一方で、山の尾根の部分の木の年輪が薄くなっていたことが判明します。
地震の影響を受けた調査地域は一般に乾燥地帯であり、この地域に生息する木々の成長は水の量に大きな影響を受けています。
そのため地震は低い谷間の水量を増やし、高い尾根の水量を減らしたことで、成長速度にそれぞれプラスとマイナスの影響を与えたのだと結論しました。
加えてモーア氏は、年輪にの細胞に含まれる炭素同位体(炭素13と炭素12)の比率を調べました。
といっても難しい話ではありません。
自然界には炭素12と炭素13という僅かに重さが違う炭素が存在しますが、植物にとっては軽い炭素12のほうが扱いやすいため、光合成を盛んに行っている植物では炭素12の比率が高くなり、炭素13の量は相対的に低下するというだけです。
モーア氏が、地震によって太くなった谷底の木の年輪を調べたところ、予想通り炭素12の比率が優勢になっていました。
この結果は、地震によって地下水脈が変化し、谷底の水量が増加して、谷底の木の光合成が盛んになったことを示します。
一方で山の尾根にある木は水量が減少し、光合成が鈍ったせいで、炭素13の比率が比較的優勢になっていました。
これらの結果は、地震は木の成長速度に影響を及ぼす要因になりうることを示します。
また驚くべきことに、モーア氏の編み出した年輪幅と炭素同位体を組み合わせた分析は、木の成長速度を1日~1週間のレベルで追跡することも可能でした。