生きた大腸菌の顕微鏡画像
生きた大腸菌の顕微鏡画像 / Credit:Benn et al. UCL
fungi

細菌の「薬剤バリア」は穴だらけだったと鮮明な画像から明らかに

2021.10.29 Friday

サルモネラ菌や大腸菌などのグラム陰性菌の表面には、強靭なタンパク質の外膜があり、これが抗生物質などの薬剤の侵入を妨げています。

しかし、英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)などの研究チームは、これまでにないほど鮮明に生きた大腸菌の表面を撮影することに成功し、そこからこの外膜のバリアが均一でないことを発見したと報告しています。

研究によると、菌の保護外膜にはタンパク質の薄くなった穴があり、これが薬剤に対する脆弱性になる可能性があるようです。

研究の詳細は、科学雑誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』にて公開される予定です。

Sharpest images ever reveal the patchy face of living bacteria https://www.ucl.ac.uk/news/2021/oct/sharpest-images-ever-reveal-patchy-face-living-bacteria
Phase separation in the outer membrane of Escherichia coli http://dx.doi.org/10.1073/pnas.2112237118

細菌が手強い理由

今回の研究はグラム陰性の表面膜に脆弱性を見つけた、ということを報告しています。

グラム陰性菌とは、グラム染色で紫色に染まらない菌のことをいいます。

グラム染色は、1884年にデンマークの学者ハンス・グラムが考案したもので、細菌を大きく2種類に分類する方法です。

細菌を移した画像で、下のような紫色に染まったものを見た覚えはないでしょうか?

グラム染色の例
グラム染色の例 / Credit:ヤクルト中央研究所,グラム陽性(陰性)菌

この染色法で紫色に染まっている菌をグラム陽性菌、紫に染まらずその後の処理で赤く見えるようになるのがグラム陰性菌と呼びます。

それぞれの代表的な菌としては、乳酸菌やビフィズス菌、耐性黄色ブドウ球菌などがグラム陽性菌、大腸菌やサルモネラ菌はグラム陰性菌です。

そしてグラム陰性菌は、強靭な外膜を持っていて、ある種の薬剤や抗生物質が細胞内に侵入するのを防いでいます

そのため、このような細菌はグラム陽性菌よりも脅威であると考えられているのです。

研究著者の1人であるUCLのバート・ホーゲンブーム(Bart W. Hoogenboom)教授は、次のように語ります。

外膜は抗生物質に対する手強い障壁です。

感染性の細菌を治療する際、細菌の持つこの耐性は重要な要素となります。

しかし、このバリアがどのように形成されているかは、あまりよくわかっていません

そのため今回、このような詳細な調査を行ったのです」

今回の研究では、原子間力顕微鏡(AFM)を使用して、細菌の表面のタンパク質を詳細に画像化しています。

原子間力顕微鏡とは、非常に小さい針で物質の表面をなぞることで、物体の輪郭を取得し画像化する装置です。

原子間力顕微鏡(AFM)測定のイメージ。黄色で示された探針を支えるカンチレバーのたわみ量をレーザーで測定し一定に保つことで表面の形状を画像化する。
原子間力顕微鏡(AFM)測定のイメージ。黄色で示された探針を支えるカンチレバーのたわみ量をレーザーで測定し一定に保つことで表面の形状を画像化する。 / Credit:HITACHI,アニメーション作成:名古屋大学講師 木村英彦様

この針の先端の幅は数ナノメートル(人間の髪の毛の太さの約1万分の1未満)しかないので、細菌の表面にある分子構造も可視化することができます。

こうして調べられた細菌の表面構造は、科学者も予測していなかった意外なものだったのです。

次ページ細菌のバリアは実は穴だらけだった

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