細胞内に新規の「共生細菌」を保持させることに成功
動物や植物の細胞の中には、ミトコンドリアや葉緑体など、かつて独立した生命であった存在が共生体として住み着いています。
かつて動物と植物の祖先(真核生物)には、酸素呼吸能力も光合成能力もありませんでしたが、ミトコンドリアの取り込みによって細胞は酸素呼吸が可能になり、葉緑体の取り込みによって光合成が可能になりました。
ミトコンドリアや葉緑体は独自の遺伝子を持ち、動植物に新たな能力を与えています。
そこで近年の生物学では、細胞内部に有用な細菌を共生させる試みが続けられています。
新たな共生生物を得ることができれば、ミトコンドリアや葉緑体が与えてくれたような劇的な変化を細胞に起こすことが可能となるからです。
今回、ミシガン州立大学の研究者たちはマウスの免疫細胞(マクロファージ)に、遺伝子操作された枯草菌を住まわせる試みを行いました。
実験の第一段階は、枯草菌をマクロファージ内部に、安定的に定着させるために行われました。
マクロファージの主な役割は、不要物や異物・病原体を内部に取り込んで(食べて)消化することにあります。
そのため通常の細菌はマクロファージに食べられてしまうと「食作用」によって消化・分解されてしまいます。
そこで研究者たちは枯草菌の遺伝子を操作して「細胞の胃袋」とも言える小胞を喰い破るために必要な特殊な酵素を与えました。
結果、遺伝子操作された枯草菌は99%のマクロファージの中に入ることに成功します。
しかし細菌を細胞の内部に入れただけでは、有用な効果は得られません。
そこで研究者たちは枯草菌の遺伝子に追加で、マクロファージの行動を変化させるためのスイッチをいくつか加えました。
マクロファージには、がん細胞や病原体を攻撃するための「炎症モード」と傷ついた組織の再生を促進させ炎症を抑える「修復モード」が存在しています。
研究者たちが「炎症モード」をスタートさせるスイッチを入れたところ、予想通りマクロファージは「炎症モード」へと移行する様子が確認され、抗炎症性サイトカイン(IL-10)が減少しました(炎症が促進された)。
また「修復モード」をスタートさせるスイッチを入れたところ、逆に抗炎症性サイトカイン(IL-10)の増加が確認されました(炎症が抑制された)。
この結果は、内部の共生細菌を制御することで、マウスのマクロファージの行動に影響を与えられたことを示します。