損傷から2週間で、腎臓が完全再生
トゲマウス(Spiny mouse)とは、ネズミ科トゲマウス属の総称で、アフリカと西アジアの砂漠や荒地に生息しています。
その名の通り、背中の毛の一部が短く硬いトゲになっていることが特徴です。
注意したいのは、これを「トゲネズミ」と訳すと、日本の南西諸島に住む絶滅危惧種の別のネズミとなってしまいます。
トゲマウスは、天敵から逃げるために皮膚を脱ぎ捨てるという特殊な防御手段を持っているので、再生能力を研究する専門家にとっては以前から重要な生物となっていました。
先行研究(Nature, 2012)ではすでに、トゲマウスは、血管系や毛包などの組織を傷跡を残さずに再生できることが明らかになっています。
今回の研究では、トゲマウスが、内臓でも同じように再生できるかを調査しました。
研究チームは、トゲマウスとハツカネズミを対象に、腎臓が損傷したときの反応を比較しています。
そのため、両者の腎臓組織を直接的に損傷させて、臓器の構造と機能が元に戻るかを観察しました。
結果、ハツカネズミでは、重度の腎臓障害を引き起こし、組織が再生・修復されることなく、致命的な傷跡(線維化)が見られています。
この傷跡は、人の臓器でも同じですが、時間の経過とともに蓄積して、腎不全の発症原因となります。
その一方で、トゲマウスでは、最初に腎臓障害が見られたものの、損傷から2週間以内に、腎臓の構造および機能が完全に再生したのです。
さらに、腎不全の原因ともなる線維化の進行も見られず、傷跡が一切残りませんでした。
そこでチームは、トゲマウスが再生過程で発現する遺伝子を、再生能力をもたない通常のマウスの遺伝子と比較。
すると、6つのクラスターに属する843個の遺伝子に違いが見られました。
再生の詳しいメカニズムは分かっていませんが、ここで何らかの「マジック」が起きていると考えられます。