電力の要らない「汗採取パッチ」の開発に成功!
開発に当たってベースとした考えは、皮膚に貼り付けるパッチが、非侵襲的(生体を傷つけることなく)かつ効率的に汗を集め、化学物質を分析するというものです。
しかし、汗は身体活動を必要とするため、血液や尿のように適量を効率よく採取し、すばやく分析する方法が確立されていません。
そこで研究チームは、パッチによる汗の採取効率を高めるべく、「自然」の中にアイデアを求めました。
それがサボテンの棘です。
サボテンの巧みな給水戦略
サボテンの大部分は乾燥地に分布しているため、わずかな水分も逃さないようにしなければなりません。
その秘密の一つが、棘に隠されています。
サボテンの棘は、円錐状に先細りしており、尖った先端部で少量の水滴をとらえます。
この時、水滴表面が曲率を持つことで、液体の内外に圧力差が生じ、水滴が先端部からゆっくりと基部(棘の根元)に向かって移動し始めるのです。
これを「ラブラス圧」と呼びます。
こうした棘の仕組みのおかげで、サボテンは少量の水分を効率的に吸収し、乾燥地でも生き抜いていけるのです。
チームは、このメカニズムをパッチに応用することにしました。
パッチ上に「ラブラス圧」を再現
ラプラス圧を再現するためにチームは、パッチ内に水をはじく「疎水性エリア」と、水を取り込む「親水性エリア」からなる楔(くさび)形のパターンを作成しました。
下図のオレンジ色の部分が疎水性で、黄色の部分が親水性となっています。
そして、親水性エリアが楔形になっていることでラプラス圧が発生し、水滴を移動させられるのです。
この楔形パターンを放射状に配置することで、採取した汗がパッチの中央に集まります。
もちろん、圧力差を利用しているだけなので、パッチを動かすための電力も要りません。
研究チームはこれまでのところ、このパッチが、微細加工されたチャネルに液体を通す従来のマイクロ流体デバイスよりも、すばやく効率的な汗の採取に成功していると報告しています。
これにより、汗を継続的にモニタリングできる可能性があります。
開発リーダーの一人であるKilwon Cho氏は、次のように述べています。
「これまでは、汗を集めることの難しさが、ウェアラブル医療機器における汗の使用を妨げていました。
しかし、新たに開発されたパッチは、この問題を解決し、多様なウェアラブル医療デバイスの実用化を可能にするでしょう」
このパッチにより、注射針による血糖値チェックの必要性がなくなるかもしれません。