脳は病気を記憶して備えている
なぜ脳は病気を記憶し、どうやって再現するのか?
謎を確かめるため、研究者たちはマウスの病気を記憶している回路がどこと接続しているかを調べました。
すると、病気記憶回路が自律神経を調節する部位(DML・RVLM)に接続されていると判明します。
この結果は、特定の病気記憶回路の活性化が自律神経をとおして、関連する体の部位に炎症を起こす「1人相撲現象」を起こしていたことを示します。
しかし仕組みはわかっても、そもそもなぜ脳が病気を記憶するように進化したのでしょうか?
研究者たちは、脳は病気を記憶することで、似たような状況になったときに、先行して免疫を活性化させることで、生存に有利に働いたと考えました。
腐っている可能性のある食べ物、傷口から感染する恐れがある危険な状況など、生存を脅かす状況を脳が検知して、免疫を先行して活性化させ炎症を起こしておけば、生存確率はあがります。
小さな哺乳類からサルをへて長い進化の末に人間となった私たちにも、同様の仕組みが備わっていても不思議ではありません。
しかし、炎症の先取は不発すると、痛みや不調をともなった炎症だけを起こす「免疫の1人相撲」となってしまいます。
学校や職場、人間関係などがトリガーとなった場合、逃げることができずに「免疫の1人相撲」に端を発した炎症が慢性化し、大きな苦痛となる可能性があります。
また、うつ病や精神病に対して高い耐性がある人でも、脳が自動的に行う「免疫の1人相撲」が防げず、精神よりも先に胃潰瘍や過敏性腸症候群を起こして体調を崩すこともあり得ます。
さらにトリガーとなる脳の病気記憶回路が、激しい「免疫の1人相撲」を起こしてしまう場合、免疫細胞が土俵(自分の体)を敵と認識してしまい、自己免疫疾患を引き起こしてしまう場合も考えられます。
研究者たちは今後、トリガーとなる脳の病気記憶回路を遮断したり、「免疫の1人相撲」を防ぐ方法を解明することで、心と体の接続によって起こるあらゆる病気に対して、有効な治療薬が開発可能になると述べています。
今度「病は気から」と思われる症状が起きた時は、本格的な炎症を起こす前に、無理をせずに体をいたわったほうがいいかもしれません。