思った以上に謝罪は相手の怒りを和らげない
読者のみなさんは最近遅刻したことはありますか。
日々の生活でどうしても避けられない遅刻を経験したことは、誰しも一度はあるのではないでしょうか。
仕事や学校、友人との待ち合わせなど、状況はさまざまですが、その場での対応や、相手への気遣いが私たちの印象を大きく左右します。
一般的に、遅刻をしたときには、言い訳をせず素直に謝ることが大切だと考えられています。
たしかに、謝罪は自分の非を認めて後悔を伝えるものであり、誠意や反省の気持ちを相手に示すための一歩と言えます。
しかし、私たちは「謝れば気持ちが伝わるはずだ」と、謝罪の効果を過大評価している可能性があります。
これは謝罪を受ける側であっても同様であることが、近年の研究から報告されています。
それは、エラスムス大学のデイビッド・クレマー氏(David Cremer)らが行った研究です。
彼らは、参加者にペアで、お金の貸し借りをさせ、片方の参加者にお金を貸したにも関わらず、思っていたより少額しか返ってこない状況を作り出しました。
そして、参加者を①相手に少額しか返すことができなかった人が「少額しか返せなくてごめんなさい」と謝るペアと、②謝罪がなく、相手から「謝られた」と想像するペアに分け、その謝罪に対する価値を評価させました。
実験の結果、実際に謝られた場合よりも、謝罪されることを想像した場合の方が、参加者は謝罪の価値を高く評価したのです。
私たちは何かトラブルがあったとき「謝れば許してあげよう」と思いがちですが、その想像は現実とは乖離しているようです。
たとえば「正直に言えば許してやる」と言っておきながら、いざ正直に謝られても簡単には許せないなど、皆さんにも覚えがあるのではないでしょうか。
これは、相手を困らせるためにそうしているわけではなく、私たちが「謝罪の効果」を過大評価しているから生じる現象と言えるのです。
では、もっと相手の心に響き、プラスの印象を与える方法はあるのでしょうか?
ここで参考になるのが、ネブラスカ大学の心理学者ジョセフ・ムロズ氏(Joseph Mroz)らが行った、職場での謝罪と言い訳に関する研究です。