ひんやり感の専用回路は謎に包まれていた

温度の感覚は、生きていくうえでとても大切です。
私たちの体は、外の温度をすばやく感じ取り、暑すぎれば日陰に逃げ、寒ければ体を震わせて体温を守ろうとします。
こうした温度感覚を支えているのが、皮膚にある神経のセンサーです。
たとえば、ミントに含まれる成分メントールで反応する「TRPM8(トリップエムエイト)」という分子センサーは、15〜25℃程度の「涼しい」温度に特に反応します。
TRPM8を持たないマウスは、皮膚のちょっとした冷たさを感じられませんが、逆に氷のような危険な冷たさは普通に感じることができます。
これは、「心地よい冷たさ」と「痛みを伴う寒さ」が体の中で別々の仕組みで処理されていることを示していました。
でも、神経回路のどこでこの分かれ道が生まれ、“気持ちいい”という感覚になるのかは長い間謎のままでした。
心地よい冷たさと痛みを伴う寒さは、皮膚にある神経のセンサーで区別されていますが、その後どうやって脳に伝わるのかはブラックボックスだったのです。
この神経回路の謎を解明すれば、「ひんやり冷たくて気持ちいい」感覚がどう生まれるか、はっきりわかるはずです。
そこで今回、アメリカ・ミシガン大学のボー・デュアン博士らの研究チームは、涼しさだけを伝える神経回路の仕組みを確かめることにしました。
果たして程よい「ひんやり感」はどのように脳に伝わっていたのでしょうか?