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忘却にはドーパミンが関わっていた / Credit:Canva
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ドーパミンは「記憶削除」のカギを握っていた。忘却は”積極的で精密な行為”である

2025.09.29 11:30:10 Monday

私たちは「忘れる」ことを失敗や老化の象徴のように思いがちです。

しかし実は、もともと「忘却」は脳のエラーや衰えではなく、脳が積極的に行っている高度な“整理整頓”作業であることが、オーストラリアのフリンダース大学(Flinders University)の最新研究によって明らかになりました。

線虫の実験から、脳内の神経伝達物質「ドーパミン」が「不要な記憶を消去するカギ」を握っていることを示したのです。

本研究は、2025年8月19日付の『Journal of Neurochemistry』誌に掲載されました。

The finely-tuned act of forgetting: Dopamine may also play key role in memory loss https://medicalxpress.com/news/2025-09-finely-tuned-dopamine-play-key.html
Dopaminergic Modulation of Short-Term Associative Memory in Caenorhabditis elegans https://doi.org/10.1111/jnc.70200

「忘れる」ことの意味とは?ハエから線虫の研究へ

私たちのは、毎日膨大な情報を受け取っています。

だからこそ「忘れること」は、脳が“本当に必要な情報だけ”を選び残すために必要です。

しかし、こうした「忘却」という現象が「どのような仕組みで起きているのか」については、長年ほとんど分かっていませんでした。

「不要な記憶が消される」プロセスも謎にに包まれていたのです。

ところが近年、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の研究で「忘れることは受動的というよりも、神経回路の働きによる能動的なプロセスである」ことが示されました。

特にハエの脳では「ドーパミン」という神経伝達物質が忘却に関与していました。

ドーパミンといえば、快感・喜び・意欲・運動・学習に関わっていることで有名です。

では、この仕組みは本当に他の生き物やヒトにも共通するものなのでしょうか?

そこでフリンダース大学の研究チームは、「線虫Caenorhabditis elegans」という極めてシンプルな動物モデルに注目しました。

線虫は体長1ミリ程度、わずか300個の神経細胞しか持たないにもかかわらず、ヒトと約8割もの遺伝子を共有しています。

分子レベルでも多くの共通点があるため、脳の基本原理を調べるのに適した生き物です。

実験では、線虫に「特定の匂い」と「エサ」を組み合わせて覚えさせ、どれだけ長くその匂いを“エサの手がかり”として記憶し続けるかを測定しました。

同時に、ドーパミンを作れない変異体や、特定のドーパミン受容体が壊れた変異体など、様々な遺伝子改変株を使い、ドーパミンと忘却の関係を徹底的に調べ上げました。

次ページドーパミンを作れない線虫は「忘れることができない」と判明

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