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海水中のCO2から生分解性プラスチックを生み出す技術 / Credit:Canva
chemistry

”海水中のCO₂”を利用して「生分解性プラスチック」を生み出す技術

2025.10.09 20:00:15 Thursday

CO₂は大気だけでなく、実は海の中にも大量に溶け込んでいます。

私たちの地球の海は、大気の50倍以上もの炭素を蓄えている、巨大な“炭素の貯金箱”なのです。

この膨大な海のCO₂を「環境問題」として語るだけでなく、「新しい資源」として活用できたら、未来はどう変わるのでしょうか。

中国科学院(Chinese Academy of Sciences)の研究グループは、「海水中に溶けたCO₂を効率よく回収し、生分解性プラスチックの材料を生み出すシステムを実証」しました。

この研究成果は、2025年10月6日付で科学誌『Nature Catalysis』に掲載されています。

Ocean carbon in, biodegradable plastic out https://newatlas.com/environment/ocean-co2-sustainable-plastic-doc/ Making sustainable plastic from the CO₂ in the ocean https://www.scimex.org/newsfeed/making-sustainable-plastic-from-the-co2-in-the-ocean
Efficient and scalable upcycling of oceanic carbon sources into bioplastic monomers https://doi.org/10.1038/s41929-025-01416-4

海に溶け込んだ大量のCO₂をどうする?

大気中のCO₂は地球温暖化の象徴として語られますが、私たちが排出するCO₂の約4分の1は海によって吸収されています。

この「海洋のCO₂吸収能力」は非常に大きく、気象庁の推定では、1年あたり21億トン炭素(炭素の重さに換算した二酸化炭素の量)だと言われています。

さらに、産業革命以降、人間活動によって排出されたCO₂のうち、1700億トン炭素が海洋に吸収されたと考えられています。

一見すると「海がCO₂を吸収してくれるなら安心」と思うかもしれませんが、 実際にはこの“溶け込んだCO₂”が、海の生態系に深刻な影響をもたらしつつあります。

CO₂が増えすぎると海が酸性に傾く「海洋酸性化」が進行します。

これは貝やサンゴなどの石灰質生物の殻や骨格が溶けやすくなり、食物連鎖や生物多様性にも悪影響を及ぼします。

こうした背景にあって、「海洋中の膨大なCO₂」を“邪魔者”として放置するのではなく、“資源”として循環利用できないか、と考えたのが今回の研究の出発点です。

研究チームが最初のステップとして開発したのは「Direct Ocean Capture(DOC)」、すなわち「海水から直接CO₂を取り出し資源化する」新しいシステムです。

これには、海水を特殊な電気化学反応槽(電気の力で化学反応を起こす装置)に通して、溶け込んだCO₂を「気体」として集めるという方法が使われています。

ここで重要なのは、海水のpHを元に戻してから自然に返すことで、海の化学バランスを崩さないようにしている点です。

この方法は、70%以上という高い回収効率を実現し、CO₂ 1kgあたりのエネルギー消費も約3kWhと比較的低く抑えられています。

また、1トンあたりの回収コストも約230ドルと経済的で、実験では536時間に及ぶ長時間連続運転も成功しています。

次ページ海のCO₂を“生分解性プラスチック原料”に変えることに成功

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