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「尻呼吸」の安全性がヒト臨床試験で確認される / Credit:Canva
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「尻呼吸」イグノーベル賞の研究がヒト臨床試験を経て”治療”へ近づく

2025.10.22 11:30:00 Wednesday

2024年のイグノーベル賞(「笑って考えさせる」がテーマ)を受賞した「尻呼吸」が、実用化に向けて着実に進展しています。

大阪大学やシンシナティ小児病院 幹細胞・オルガノイド医療研究センター (CuSTOM)に所属する武部貴則氏ら研究チームが、ヒトを対象にした「腸から酸素を吸収する」という新しい治療法の実現に向けてヒト臨床試験を実施。安全性が確認されました。

この研究成果は2025年10月20日付で『Med』誌に掲載されました。

Butt-breathing science goes from IgNobel Prize infamy to human reality https://newatlas.com/disease/butt-breathing-ignobel-prize/ IgNobel ‘Butt Breathing’ Idea from 2024 Moves Closer to Real Treatment https://scienceblog.cincinnatichildrens.org/ignobel-butt-breathing-idea-from-2024-moves-closer-to-real-treatment/
Safety and tolerability of intrarectal perfluorodecalin for enteral ventilation in a first-in-human trial https://doi.org/10.1016/j.medj.2025.100887

2024イグノーベル賞「尻呼吸」のその後は?

お尻から呼吸するという、一見すると突拍子もないアイデアですが、これには生き物の体の不思議な仕組みが深く関係しています。

2024年に発表された研究では、哺乳類でも腸を使って酸素を吸収できることが実験的に示され、大きな話題となりました。

この研究は、ドジョウやナマズなどの魚類が、酸素の少ない水環境でも「腸で酸素を取り込む」という生存戦略を持つことに着目したものです。

研究者たちは、マウスやブタといった哺乳類を使って、直腸に「酸素を多く溶かした液体」を注入し、血中の酸素濃度が上昇することを明らかにしました。

この成果が世界的に評価され、2024年のイグノーベル賞(「笑って考えさせる」がテーマ)を受賞したのです。

2024年イグノーベル賞受賞研究で打線を組んでみました

しかし、この研究は、単に「笑い」を与えて終わるものではありませんでした。

重い疾患や事故などで人工呼吸器が必要となる患者は少なくありませんが、人工呼吸器の使用には肺に新たなダメージを与えるリスクがあるため、より体に優しい酸素補給法が求められてきました。

腸は血流が豊富で、栄養や薬などを体内に取り込む能力が高い臓器です。

この特徴を生かし、ヒトでも腸の粘膜から酸素も吸収できるなら、新たな「呼吸法」「治療法」を生み出せるかもしれません。

研究チームは、イグノーベル賞をとった動物実験の成果を受けて、いよいよ人間でも安全に応用できるかどうかを確かめる段階に進んでいます。

今回のヒトを対象にした臨床試験では、日本人の健康な成人男性27人(20歳から45歳)が協力しました。

研究チームは、パーフルオロデカリン(perfluorodecalin)を用いました。

パーフルオロデカリンは、非常に多くの酸素を溶かすことができ、医療用途での利用実績がある物質です。

今回はあえて酸素を含まない状態のパーフルオロデカリン液を、直腸から1回、最大1500mLの範囲で注入し、その後60分間体内で保持するという方法がとられました。

試験の目的はあくまで安全性と忍容性(薬の副作用を患者がどの程度まで許容できるか)を確かめることだったからです。

注入後には、参加者のバイタルサインや腹部の症状、血液検査(肝臓や腎臓の機能を含む)などが厳重にモニターされました。

液体成分が体内に吸収されないかや、重い副作用が起きないかも慎重に確認されました。

次ページ「尻呼吸(腸呼吸)」のヒト臨床試験で安全性が認められる

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