VTuber卒業はファンに大きな喪失をもたらすとの研究結果が発表
VTuber卒業はファンに大きな喪失をもたらすとの研究結果が発表 / Credit:“Can’t believe I’m crying over an anime girl”: Public Parasocial Grieving and Coping Towards VTuber Graduation and Termination
psychology

VTuber卒業はファンに大きな喪失をもたらすとの研究結果が発表

2025.12.22 18:30:31 Monday

カナダのウォータールー大学(UWaterloo)などで行われた研究によって、VTuberの「卒業」や契約解除はファンにとって単なる「コンテンツ終了」というより、絆の喪失として体験されやすいことが見えてきました。

研究ではVTuberとして活動していた「桐生ココ」さんと「潤羽るしあ」さんの2人の卒業/契約解除の後に寄せられた約3年にわたる膨大な投稿やコメントが分析されており、卒業や契約解除がファンにどんな影響を与えるかが調べられています。

会ったこともない相手に、なぜ私たちは友達を失うような痛みと絆を感じてしまうのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年4月26日に『Proceedings of the 2025 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems(CHI ’25)』にて公開されました。

“Can’t believe I’m crying over an anime girl”: Public Parasocial Grieving and Coping Towards VTuber Graduation and Termination https://doi.org/10.1145/3706598.3714216

会ったことないのに、友達みたいな気軽なやりとり

会ったことないのに、友達みたいな気軽なやりとり
会ったことないのに、友達みたいな気軽なやりとり / Credit:Canva

VTuberと視聴者は特別な絆で結ばれているのかもしれません。

ただ動画を視聴するだけの受け身な状態とは違って、リアルタイムでコメントを読み上げてもらったり、配信の中で名前を呼ばれたりすることがあります。

他にも、同じタイミングで笑ったり驚いたり、軽い冗談にツッコミを入れたり入れられたり、ホラーゲームで同時に怖がったりすることもあるでしょう。

時には真面目な話題で一緒に悩んだり、視聴者の悩みに真剣に相談に乗ってくれたり、場合によっては叱ってくれたりもします。

雑談の合間にふざけ合って笑ったり、大喜利でボケてみたり、互いに冗談のような罠を仕掛け合うことだってあります。

こうした小さな「瞬間」が何度も何度も繰り返されるうちに、ただの画面の向こうの配信者だったはずが、まるで「会ったことのない友達」のような存在へと変わっていくのです。

心理学では、もともとこうした一方的な親しみを「パラソーシャル関係」と呼んでいます。

パラソーシャル関係とは、視聴者側だけが一方的に親しみを感じてしまう、片方向の人間関係のことです。

これは元々テレビの司会者や芸能人のファン心理を説明するための概念でしたが、インターネットの普及とともに、急速に姿を変えています。

しかしVTuberが登場し、ライブ配信が当たり前になった現代では、このパラソーシャル関係の意味合いが、以前とは大きく違ってきています。

テレビのキャラクターや芸能人とは違い、VTuberの場合は「ほぼ毎日」「何時間も」視聴している人もいます。

毎日学校や会社から帰った後、友人に会うような感覚でVTuberの配信にアクセスできるのです。

このように長い時間をかけて「一緒に過ごした感覚」を積み重ねていくと、私たちの心の中に、本当の友人との記憶と同じような存在感で「推しとの思い出」が並んでいきます。

そのため学術的にもVTuberとファンの関係は「テレビに映る芸能人」とは質感が異なる「1.5方向パラソーシャル」(1方向以上で2方向以下)に分類する意見も出ています。

また、VTuberには「キャラクター(アバター)」とその裏側にいる「中の人(演じている本人)」という、特殊な二重構造があります。

私たちは、可愛らしいアバターが笑ったり動いたりする姿を通して親しみを覚えるのですが、その背後には当然、生身の人間として感情や生活を持つ演者が存在しています。

配信中に突然真剣な声色になったり、息遣いが疲れていたり、普段と違うトーンで仕事や学校の話が語られたりすると、キャラクターとしての雰囲気の外に、ふと「中の人」の気配がのぞくことがあります。

視聴者はこの微妙な変化を感じ取り、「あ、今の笑いは素に近いのかも」とか、「今、本当に疲れているのかな」といったように、画面の向こうにいる「人の気配」をリアルに感じることができるのです。

しかし、このように密接な親しみを感じるVTuberであっても、いつか必ず引退や活動終了の時がやって来ます。

実際、今回の研究が執筆された時点では、すでに600件以上のVTuberの引退が確認されています。

中には、絶頂期のまま活動を終えた人気VTuberもいます。

例えば2021年に卒業を発表した桐生ココさんの場合、その最後の配信には、50万人以上の視聴者が同時に視聴していました。

これだけの規模で「卒業」が話題になったのは、VTuberの存在が多くの視聴者にとって、単なる「娯楽」以上に深い絆を生んでいたことがうかがえます。

では、こうした強い親しみや絆を感じているVTuberが引退する時、私たちはどんな悲しみに襲われるのでしょうか?

頭の中では、いつか別れが来ると分かっているつもりでも、実際にその日が訪れた時には、まるで本当の友人を失ったかのような強い悲しみを味わう人が少なくありません。

その悲しみや喪失感は、時間とともに完全に消えてしまうものなのでしょうか?

それとも、別れた後も何らかの形で私たちの心の中に残り続けるのでしょうか?

――この研究は、その疑問に本気で挑んだものです。

次ページ悲しみは減るのに、後悔は増え続ける

<

1

2

3

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

心理学のニュースpsychology news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!